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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
333/823

1/3 朝ごはん

 ゆっくりと一歩を踏み出す。

 ぎちり

 そんな音を立てて、足元が揺らぐ。

 ぱりんと剥離した白い欠片が弧を描いて落ちていく。

 冷たい風が吹き上げてきて剥離した白い欠片が舞い上がる。

 見上げた空は藍の青。

 藍色の翼が大きく空にひろがる。

 ひろげられた翼のあたたかさをおもう。


「どうして! なんでよ! かえしてよ!」

 それは嫌な夢。

 知ってる。

 本当に悪い相手は違うこと。

 言い返せないことを知ってて責めた。

 知っていても止めれなかった。

「ねぇさん」

 やるせない感情をただぶつけた。


 暴力か無関心かの二つの間で揺らぐ両親から訣別した時、ねぇさんはまだ11歳で私は2歳だった。

 いろいろ逃げて、最後に一緒にいれるお母さんのところに引き取られた。

 それなのに、ねぇさんが恋に落ちた相手は簡単に暴力を振るうような、逃げ出した親のような男だった。

 その事実は一緒に暮らすようになってすぐに知れた。

 間をおかず私はお母さんのところに逃げ戻った。それがねぇさんを危険に晒している自覚はなかった。ただ、あの男が嫌いで怖かった。

「謝ってくれる。やり直したいと言ってる。反省してる。愛してるし愛してくれてるの。もう、しないって言ってくれたわ」

 ふわふわと楽観的なねぇさんの言葉。

 ほかのきょうだいが黙って首を横に振る。

 本当は私だってわかってた。あの男はダメだ。繰り返すって。でも目を閉ざして見ようとしなかった。

 ようやくねぇさんが『ダメなのかも』と危機感を持ったのは子供ができたからだった。

 変わらない男にねぇさんはようやくシェルターに逃げ込んだ。安全なはずだった。そこで手続きが進むはずだった。

 それなのに。

 なぜか出かけたねぇさんはあいつに見つかって刺し殺された。

 病院までは生きていて、それでも失血が多すぎて、そんな状況だからねぇさんのそばには誰も家族はいなかった。一人で心寒い中逝った。

 帰ってきたねぇさんを見る表情が許せなかった。

『お前のせいだ!』

 そう告げた瞬間、傷つけたのを知った。それでも止めれなかった。それでいいと思ったから。


 恋なんかしない。だって怖い。

 同じ轍は踏まない。ねぇさんみたいにならない。

 ちゃんと一人で生きていく。

 できうる限り頼ることなく、一人で立って歩いて行きたい。

 縋って、頼らなければ生きていけないような女にはなりたくない。


「おはよう。飛鳥ちゃん。今朝はトーストと目玉焼き。失敗しようのないメニューだよ?」

 そう、特に千秋タイプなんかは最悪な典型だと思う。

 暴力を厭わず、ずっと他の女の影がつきまとう。最低最悪の相手だ。


「さいてー」


「今日はどこに遊びに行こうか? 隣町まで足伸ばす? それともうちの中?」

 人の話を聞く気もない。

「びーち、は?」

「そっちはつまんないよ。普段から住んでるんだし。大阪(ばーちゃんとこ)行こうっていうのは断るんだもんな。旅費は出すって言ってんのにさ」

 私がトーストを食べている様子を眺めながらニコニコと言葉を綴る。自宅そばにいたくないのか。

「ちーちゃん。突発すぎ」

「いろいろあるんだよね」

 そう呟いて、揚げたパンのミミをかじる。

 笑顔でいてもその視線はどこも見ていない。

「この町慣れた? いいところだろ?」

「そうやね。いい町やと思うよ」

「ん。俺もね、この町好きだから、飛鳥ちゃんも好きって思ってくれてると嬉しいな」



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