1/1 逃亡先で
べちり
妙な音とともに転んだ。
くると思った痛みは来ない。
バサバサと羽音が聞こえて気分が悪い。
落ち込んでる時に聞く羽の音は嫌い。
「……ぉい」
下から何か聞こえてくる。
気のせい?
うん。
「気のせい」
「……なわけ、あるか!!」
下に妖精のお兄ちゃんがいた。
「なんでいるのよ」
テンションが上げれない。
見られたくないから上から退いてあげない。
切り替えが上手にいかない。
「お前が突っ込んできたんじゃないか」
声に怪訝さが混じっている。
さすが妖精さんカンがいいのね。
「進路上にいるのが悪いのよ…………」
「おい?」
ああ。ダメだ。これは八つ当たりだ。
「しかたないわね! ごめんなさい。前見てなかったの。ケガ、しなかった?」
妖精のお兄ちゃんの上から降りながら尋ねる。
見たくない。見られたくない。
「怪我はねーよ。軽いしな」
「まだ、クッションにしててもよかったってことね! 降りるんじゃなかったわ!」
「あのなぁ! ……バカか?」
「バカっていう方がバカなんだから」
頭を撫でてくる手は思いのほか、優しい。
それに走って転んで、ぶつけたからだ。
「なんでここにいたのよ。ヒドい。ヤだよ。嫌いだわ。おにーちゃんたちなんかだいっきらい」
とまらない。八つ当たりはカッコ悪いのに。止まれない。
「……ヒドい。サイテー。絶対顔ひどいわ。見ちゃダメなんだからね」
どのぐらい泣いたのかわからない。妖精のお兄ちゃんはずっとそばにいてくれて。
しかたなさそうに生返事してくれてた。
「鳥は好きよ。羽音も飛ぶ姿も普段は好きなのよ」
天気の良い空。空気は冷たく青く澄んでいる。波音は優しいのに。……泣くような天気じゃない。
「カッコ悪いのはキライなの。みっともなく泣くのもイヤ。できることをしないのもイヤ。どうして、なにもできないの?」
せっかく止まったのに。みっともなくてイヤ。
「かっこうって他所の鳥の巣にたまごを産んで育ててもらうんだよね。それでほかのたまごより先に殻を破ってほかのたまごを落としちゃうの」
妖精のお兄ちゃんが撫でてくれているリズムが優しい。
「私がそうだから、お兄ちゃん達からしたらいつまでも異物なのかな? 家族に入れてもらえないのかなぁ」
私がうろなに来ちゃダメだったのかなぁ。
「んなわけねーだろ」
「そぅ?」
息を吐く。
「鎮兄は私がうろなに来て二ヶ月で家出騒動起こして、そっから先はぎこちなさを引きずってるし、千秋兄だって苛立ってるくせにそれを表に出せないの。家族じゃないから手を貸せないの」
「ソレはお前のせいじゃねーだろ」
「だって隆維兄達もあの時は驚いてたもの。環境の変化は私が来たことだもん。望まれたのあちゃんとは違うんだよ」
千秋兄には嫌われてるし、鎮兄は長く一緒にいたみあやのあの方が愛しげで。
なんだか家族に入れない。
ダメなんだと思うとこぼれはじめた涙が止まらない。
フィルくんお借りいたしました。
見えたものは限られてて踏み込めない一歩が作る壁。




