遠方にて
ブローチを灯りにかざす。
「素敵ね。貴方がピンクで私が黒ね」
「はいはい」
穏やかにわたしをあしらう彼のシルバーの髪が暖炉の赤を弾く。
部屋にはホームパーティーの残骸。
ソファーでくつろぐ彼の横に靴を脱いで寄り添う。
「お礼のメールをしなくちゃね。ねぇ、あの子たちは元気だった?」
「元気だったよ。奥さんは本当にあの子たちが好きだね」
低く囁く声は愛おしい。胸元に体を寄せて見上げる。
「あら、やきもち? かわいいわね。あの子たちを気にするのは当たり前でしょう?」
「シーが恋人を作ってて、クリスマスデートに出かけてたよ」
「まぁ! ステキね。どんな娘だった? 気になるわ! 教えてくれないだなんて、酷いわ。それともそういう年頃かしら?」
少し、身を引き、手を打って彼の琥珀の瞳を覗き込む。
彼の瞳が優しく甘く子供達を想う。
可愛くてかわいそうな子供たち。
「穏やかそうな可愛らしいお嬢さんだったよ。そういう年頃だろうね。あんまり弄ると嫌われてしまうよ」
嫌われるのはダメだわ。
大事な子供たちに嫌われるのはダメ。
「それは嫌だわ。チアキはどうだった? あの子元気だった? この間の電話では声が少し心細げに聞こえた気がするの」
ちゃんと私がお義母さまに代わってママになってあげたかったのに。
距離が遠いのがもどかしい。
「知らない子と一緒に住んでるんでしょう? チアキもシーも苦手でしょう?」
あの子たちは繊細だもの。
彼がどうってことはないかのように笑う。
人の気も知らないで。男の人って時に無神経で鈍いと思う。
「アーサーの子供達だよ。ちゃんと兄弟やっていたよ。取られてしまった気分なのかい?」
優しく尋ねられる言葉についふてくされてしまう。彼の手が髪を弄ぶ。
そう、心が冷える。
思うままに行かないことは辛い。
「……そうよ。あの子たちはうちの子だわ。それなのに。アーヤには困るわ。私たちが心配するってことを考えてくれないんだもの」
アーヤはワガママだ。
選ばれて甘やかされ守られて許されている。
どれほど守られているか自覚もしない。
「マンディ」
彼の手が爪を噛みかけてた私の手を握る。
子供達が気になるわ。
写真とかは時々、送ってもらうけれど、その数は少ない。
安心するには足りない。
「せめて年に一度くらいサンプル血液でいいから送ってくればいいのに」
不安なのよ。
「マンディ」
「だって、ちゃんと元気でやってるか心配なの。今年の夏はテスも帰ってこなかったし」
あの子たちは私を忘れてしまわない?
優しく見下ろしてくる琥珀の瞳と視線が絡まる。
「あの子たちは元気だよ。テスも、ね」
バタバタと足音が響き、ドアが大きく開けられる。
「カバンのそこに入っちゃってたんだ。テスお手製の帽子だよー」
駆け込んできた息子。
その頭にはブサイクな帽子。
チャレンジは全て成功するとは限らない。
テスのかわいい努力は愛おしい。
そして、それを喜ぶ息子の姿も愛おしい。
「ロブがショックを受けてた」
「あら、どうして?」
「シーが男だって信じてなかったみたい」
「あら、まぁ。性別の壁を乗り越えることはなかったのね」
息子が笑って頷く。
「あんまりおしゃべりできなかったしね」
「それは、残念だったわね」
青空空ちゃん話題にお借りしました




