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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
328/823

1/1 知らないから

 雪姫ねぇちゃんのところからの帰り道。

 風峰さんが車に乗せてくれた。

 彼はなぜか雪姫ねぇちゃんに『高校に遊びにおいで。頭数が欲しい!』と妙な物言いをしていた。


 疲れたのか、車内で涼維が眠りに落ちた。


「魔女の庭って知ってる?」


 …………


 軽い口調で振られた話題。


「聞いたことはあるよ」


 そこからこぼれた忌児。


 そう言ってくる相手もいた。


 よくは知らないけど、いい場所ではなさそうだった。

「事件の時の記憶は残ってないんじゃあ?」

「思い出した。だけ」

「そう。何があったのか正確に?」

「もうすぐ四歳だったとはいえ、幼児に変な期待しないでよ」

 憶えてるのは潮の香りと血の匂い。

 銃声と破砕音と悲鳴。泣き声と罵声。

 飲まれていく小さな指。





 涼維が泣いてた。




 誰も手を伸ばしてくれる人間(ヒト)はいなかった。


 静かになった波の子守唄のさなかにぱてぃが来てくれた。

 そこには家の子供も混じっていたらしく、『生き延びた』『ケガひとつなく』という眼差しは涼維を怯えさせるのに充分で。

 あまり優しい記憶ではない。

 第一、

 聞いていたのは『魔女の庭』だったのか『海の魔女』の話だったのかもあやふやだ。


 彼らは「うまくいけば『魔女の庭』の子供になれる」と言っていた。

 それが彼ら自身を指していたのか、生き延びた子供達の道だったのかも定かではない。

 そして俺は『魔女の庭』を知らない。




 っていうか気分悪いな。

 なんで表沙汰にならなかった事件のこと知ってんだよ。

 雪姫ねぇちゃんと会って気分良かったのに。



 あの事件での死者は攫われた子供・犯人含めて27人。

 ケガ人はおらず、生き延びた子供が二人。

 閉じ込められていて事態を理解できているはずもなく。

 無かったことになった事件だ。


 家を継いで欲しいと言われなければ、確認調査の書類なんか確認しなかった。

 具体的な死者の数が哀しかった。


 父さんは嫌いだった。母さんはこわい。




 何も知らない。



 ただ手を差し出してきた『何も知らない』兄さん達の存在は、『特別』だった。


 たぶん、何も知らない相手だから『家族』になれた。




「ケンカ、売ってる? おっさん」

「いいや、ただの警戒促し」

 ふぅん。

「まぁいいや。送ってくれてありがとうございました。涼維、起きなよ。着いたよ」

 犬猫(てぶくろは雪姫ねぇちゃんのとこ残留)をおろして、涼維を起こす。

「……ぅん」


 あんな話を聞いたとしても兄さんたちは変わらない。と思う。

 驚くぐらいで済ませる気がする。

 千秋兄は「バカらしい」って言いそうだし、鎮兄は抱きしめてきそうだと思う。

 同じくらい兄さんたちに秘密があっても「まぁいいや」と言ってられると思う。



「隆維、大丈夫?」


 涼維の声に笑う。

「じょぶ。送ってくれてありがとう。おっさん」

「ありがとうございました」

 風峰のおっさんはにっと笑って頭を撫でてきた。

「イイ一年を過ごせよ」

『はーい』



 秘密はこぼれるものだけど、全てをあきらかにすることなんかできない。


 知らないから築くことのできる絆もあるから。

さらりと雪姫ちゃんお借りしました。


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