12/31 そば
「逃げるな! 怪人!」
「逃げる!」
「カラスマントが女の子から逃げてるのはいまいちカッコ悪くね?」
「うん。でも、追っかけられると逃げグセついてるよね。重ねぇちゃんには」
「オソバ?」
「そ。年越しそば。なんか由来はあるらしいけど、ウンチク得意な怪人カラスマントは今アレだから」
疑問符を浮かべるバート兄ちゃんに逃亡劇で笑いをとっているカラスマントを指差して示す。
ノワールは親族会に引っ張られてるらしい。
「女の子はこわいねぇ」
一括りにしようとするバート兄ちゃんに首を横に振っておく。
「アレは重ねぇちゃんだからだよ。まとめたら他の女性に失礼だよ」
「そうかい?」
にこやかに尋ねられたので頷いておく。
「あとは海ねぇも別枠だから!」
「あみ?」
『アレ!』
俺と涼維で一つの方向を指す。
「アレ……」
パワフルに料理に励む海ねぇは男前だ。
「別枠だねぇ」
しみじみ言うバート兄ちゃん。
さんっ
砂を踏む音。
バート兄ちゃんの肩を支えにしてかなりの距離を取るカラスマント。
「感謝である!」
お。距離取り可能?
ただ、俺が重ねぇちゃんに突進された。
ま、ライン上にいたのが悪いのかもしれないけど避けれないし。
「なんで? あんたの運動神経なら平気でしょ」
「調子崩してからもどんねーんだよ」
つーか、今が『本当』なんだよ。
「謝りもせず無神経だな。大丈夫かい? 隆維」
「食べたんなら帰っておく? 隆維」
かなりな物言いのバート兄ちゃんの手をとる前に千秋兄に引き立たせられる。
重ねぇちゃんの立場ないよな。居心地悪いだろうし。
少し首を傾げる。
それにしても千秋兄とバート兄ちゃんって一方的に仲が悪いよね?
涼維を見ると小さく頷いてくれる。同意らしい。
千秋兄の足元には公志郎が連れてきたトロっていう犬がまとわりついている。
公志郎を見ると軽く手を振られた。
「帰る。千秋兄も?」
ちらりと周囲との距離を見る千秋兄。
最近とくに神経質だと思う。
だから、あえて重ねぇちゃんはスルー。
「そうだね、帰るよ。あんまり鎮いじめないでね、重ちゃん」
まぁ、鎮兄が女性相手に逃げ回るのも実際珍しい。
「千秋じゃ情報量がねぇ」
情報源に逃げられるくらいいじめたんじゃねぇのと少し思う。
つーか、今、鎮兄の邪魔しないでほしいよな。
「バート兄ちゃんは?」
本音は別行動がいいんだけど、過剰スキンシップで鎮兄に絡まれるのもまずいし。鎮兄止めないし。
「友人と仕事の話があるからそろそろ行くよ」
「仕事?」
「高校生に英語教えるんだって」
「え?」
千秋兄が驚く。
「夜の学校だよー。だからしばらく一緒だね」
◇◇
ぶつかる音に背後が気になる。
「逃げとけ、逃げとけ。見に行っておくから」
ノブ兄の言葉に甘えてもう少し走る。
ピークの波がひと段落したのか、「歌いおさめしない?」とねだっている人垣に突っ込む。
「セイレーンは攫って行くぞ!」
ひょいッと抱き上げてまだ道の残る人垣の中から脱走。
背後で上がる声は聞かない。
ひとしきり、人をまいて息をつく。
「揺れて、気持ち悪くとかならなかった?」
「……う、ん」
「そう。よかった」
そっと下ろす。
軽く抱きしめて、仮面をずらし、そっとキスをする。
「今年、最後のキス。な」
ヒョイっと仮面を戻して表情を伺っていると驚いた表情に熱が上がっていくのがわかる。
上目遣いが反則だと思うんだ。
「……ズルイよ」
「うん」
少し離れた場所でカウントダウンが聞こえる。
2
仮面を外す。
1
「ハッピーニューイヤー」
今年最初のキス。
「今年もよろしくお願いします」
海ちゃんチラリ
空ちゃんお借りしましたー
言う言わないバラすバラさない以前に普通にそういう行動に出るやつでした。
大丈夫か!?
空姫!?




