自称リアリスト
「津田舞さんですね。あの、提出書類に不備があるようですが」
「あ、そ、それは」
事務所では椹木新が少女と保護者を前に冷たい物言いをしていた。
あー。対処外の出来事か?
あいつパニクると人当たりがキツくなるんだよな。
「椹木、どうした?」
「あ、先輩。あの、こちらの津田さんの書類に不備が」
ひょいッと覗けば、どうやら数枚不足している書類があるようだった。
さらっと目を通す。
ふぅん。
「椹木、かわるからお茶いれて」
「あ、はい。失礼します」
あからさまにほっとしたように席を外すらぎあっち。
津田親子(仮)は不審者を見るように俺を品定めする。
今日のファッションはダメージジーンズ(おしゃれ仕立てでなく年季で)に三枚千円という超お買い得だったトレーナーという格好だ。朝らぎあっちに文句をつけられた気もする。
会長が新年度からは用務員用の制服採用するって言ってたから早くこないかなぁ。
「風峰です。よろしくー」
とりあえず名乗って椅子に座る。
チラ見した書類をもう一度、手にとって確認する。
「津田です」
頷いて書類を置く。
「ではまず、不足している書類は、取り寄せ照会は可能でしょうか?」
「……」
少々困惑した表情が見えた。
つまり、ムリ。もしくは存在しない。
「わかりました。大変だとは思いますが、学校で学びたいと思ってるんだよね?」
処理方法を考えつつ少女に問う。
やる気がない相手に無駄活動は嫌だし。
「あ、当たり前でしょ! でなきゃ!」
好反応が返る。オーケー。
「はい。わかりましたー。善処します」
「せ、先輩!?」
椹木がお茶を持って戻ってきた。
安請け合いに驚いているらしい。
ダメだよ?
マニュアル外にも対応できなきゃ。
例えば、
「時々、あるんだよねー。無国籍児童」
「は?」
「親や行政の不備で国籍のない子供ね、手続きはけっこう面倒だし、処理がおかしくなるケースがあるんだよ。あと住んでいた住所でもねー震災で申請書類がなくなってやり直しだけど連絡取れなくなってるとかね」
大嘘だ。椹木、真に受けるな。例え話だから。
お茶を受け取って喉を潤す。
「そういう子供の学校関連の書類が残らないとか問題があるんだよ。まぁそうでなくても学校の生徒になってくれるんなら宇宙人でもインベーダーでもエイリアンでも歓迎だけどね」
「全部、宇宙人じゃない!!」
生徒候補である舞ちゃんが声をあげる。
そのツッコミを待っていた。
「別に妖怪でも異民族でもバイオロイドでもアンドロイドでもロボットでも犬猫でも差別せず受け入れていいと思っているぞ!」
「緩すぎですよ! それになにあり得ない妄想を暴走させてるんですか! すみません。津田さん」
「廃校の危機を回避するのが先だって。で、おかわり」
困惑顔でそれでもおかわりをいれに行くらぎあっち。
「お二人の分もねー」
「はーい」
むこうから声が返る。
一息。
さて、
「書類作成に少々時間がかかるので試験には間に合いませんので編入組として処理させていただいてよろしいですか?」
展開に驚きつつも頷く津田父(仮)。
「ただ、不足書類の関係から学費免除のほうが適用されませんし、学校の卒業となるとソレまでに不足書類を補っていただく必要性があります。卒業まででかまわないと思いますけどね。いろいろと雑多な処理が必要になるわけですが」
津田親子の表情が難いものになる。
「……金、か」
まぁいくらか資金もかかるかな。
「各所に手配する迷惑金ですね。まぁ、些細なものです。津田さんが気になさることはありませんよ」
きょとりとした表情になる。
「ギブアンドテイクといきませんか? この辺の話は椹木には向かないので」
「ギブアンドテイク?」
「お嬢さんは学校に行きたい。書類は足りない。適切な書類が出てくることはない。ですよね? 津田さん」
「お父さんのことを……!」
舞ちゃんがお父さんがいじめられてると思ったのか敵意の眼差しでこっちを睨んでくる。
「舞」
津田父が娘を止める。
「ギブアンドテイク、とは?」
「提案を、聞いていただきたいのです。当校はこの一月からのスタートは試運転のようなものと考えており、教員との契約も様子見されている状況です。うろな中高、小学校の先生方も協力を申し出てくださっていますが本来の生徒さん達に集中していただくのが先生方の本分です。ま、絶対に甘える部分が出るのはわかってるんですけどね! 入試の採点とか、学力レベルの判定とか方向性の教師としてのアドバイスとか」
じっと聞いてくれているのを確認。さっき、飲んだ分のお茶一杯分でお湯は沸かしなおしになるから、らぎあっちの性格からしてまだ戻ってこないな。
「それで、ですね。引き受けていただけなくてももちろん、舞さんの手続きは進めます。頭数も必要なので喜んで、と言えます。各企業からの補助金を回せば金銭面で他の生徒さん達とは変わらないと思います」
「回りくどいな」
「失礼。生徒に算数レベルから高等技術レベルまで教えれる理数系教師として先生やってくださいませんか? 低賃金で!」
「低賃金」
「低賃金です! ココ重要! 資金に限りはあるし、正規の新学期にどれほど生徒が集まるかも不明! アメリカから来てくれる英語教師も低賃金。というか、本来正規の教員ではないですしね。嘱託職員と言うやつです。それでもお嬢さんのそばにいれますし、もしかしたら先生の技術に感銘を受ける生徒や、『さんすうのたのしさ』を知る生徒も出るかもしれない。どうですか? 津田先生」
「……さんすう。なのか?」
確かに高校だけどねー。
「高望みは厳禁ッスよ。津田先生」
「返答の期限は?」
「できれば本年度中に」
「舞の入学は」
「それは条件に入っちゃいませんよ。生徒数は欲しいんで。あと細々としたものですが高校教師津田。と言う肩書きは印象を変えますよ」
いや、だって、ロボットって男の子の憧れだよ?
カッケーって思うよ?
ひとつ息を吐いて津田父と視線を合わせる。
「生徒の種族・民族・出生惑星。それらすべてを含めて俺は気にしません! 生徒と学校に困ったことにならなきゃいいんです。俺はこれでもリアリストのつもりです。高校生でもさんすうへの理解が低いかもしれない。コレも現実です。雪男はいないと言う検証はできない以上いると言う可能性を消すのは現実的ではないでしょう? 世の中ポロリと腕が取れて『うちの民族の特色でー』なんて言ってくる民族も存在するんです。世の中何があってもおかしくないと言う見方で生きていくことこそがリアリストのあり方!」
がつっ
後頭部に打撃を感じる。
「痛い」
「申し訳ありません! 津田さんには失礼を! 先輩ナニ暴走してるんですか! マジありえませんよ!!」
らぎあっち、どこから聞いてたんだろーなぁ。
「そんなんだから七十回も振られるんですよ!」
「いや、後五回くらいで三桁到達」
まったく
「何で振られるんだろう?」
津田仁・舞親子お借りしました!




