クリスマスデート☆乾杯
旧水族館についたのは七時ごろで、灯りはほとんど落ちていた。
稼動しているのはセキュリティ用の電源だけかな?
ココまで落ちてる日っていうのも珍しい。
駐車場から回りこんで自宅の入り口へ。
途中、病棟の方に灯りが見えた。
沖に出ている船の照明がちらちらと見える。
くるりと廊下を回って水族館部分へ。自宅部分から回るレストランフロアは比較的近い。
水族館としての入り口から入ると結構回り道をすることにはなる。あえてそういう造りになっているとおじさんが言っていた。
「暖房入れるなー」
思ったよりレストランフロアの室温は下がっていた。
照明と暖房のスイッチを入れる。
あー。
何で俺こんなに緊張してんの?
「空ちゃん、厨房の方に行こう。あっちの方がすぐ暖かくなるし」
「……うん」
何かに気を取られていたのか、少し間をおいて返事が返る。
暖房はレストランフロアと厨房は別管理だがスイッチを入れたときに連動するようにプログラムが組まれている。
鍋にはシチュー。
冷蔵庫にはタッパーに入れられたサラダやチキン。
「空ちゃん、このまま食べるのもいいけどさ、簡単グラタンにでもしちゃおうか?」
振り返って見た空ちゃん。
白いワンピースにツリーの照明の青や赤がキラキラしてて、少しほつれた髪や、無防備な表情がすごく。
「きれいだ」
かぁっと一気に真っ赤になる空ねぇ。
俺も赤くなってる気がする。
って言うかナニ口走ってんの俺?
「あれ? 朝、こんなケーキあったっけ?」
「え、えっと。どうかした?」
そっと赤い顔のまま覗き込んだ空ねぇが「ああ」と頷く。
「ん?」と首を傾げると、
「海お姉ちゃんが、ね」
あ。納得。らしいわ。
「今年はみんなそれぞれの予定優先だからなぁ。うろなにきてみんなバラけるのは実は初めてなんだよな」
まぁ仕方ない面が多いんだけどさ。
「隆維・涼維たちはラフっておじさんが来日してるから、今日の午後から明日の朝まではそっちと過すって言ってたし、芹香はグリフ兄たちが遊園地連れて行くって来てくれたわけだし、俺は空ちゃんとデートだし?」
落ち着いてきていた表情にまた照れたように朱がはしる。
「揃って受け取れなくて海ねぇに悪かったかな? でも、デザートはコレで決定♪ な」
「うん」
その後はグラタン皿を出してきて二人で具材の追加トッピングをどうするかでお話し合い。
「グリーンはブロッコリーとアスパラどっちがいいかな?」
「両方いっちゃおうぜ。スティックにんじんそのまま放り込んでいいかな?」
「え? せめて三分の一くらいに切ろうよ」
お話し合い?
提案した具材はすべて追加した気がする。
「量、多くないかなぁ?」
「大丈夫、俺が食える」
「えーほんと?」
「まじまじ」
そんな会話をしながら作業を進めていると気がついたら普段どおりの空気が戻っていて落ち着く。
盛り付けを任せて、俺はテーブルセッティング。
ツリーそばのプレゼントをひょいっと覗くと空ねぇ用のタグと俺の名前のタグがわかりやすいところにおいてあった。
他の青空家名義は汐ちゃんと渚ちゃんで持ち帰ったのかな?
まぁ、隆維・涼維も今日はそっちに泊まりに行くはずだから一緒に、かな?
ツリーそばで、テラスそば、うろなの海を眺めれる場所に基本的なテーブルセッティングが終えてある席があった。
千秋が、気をきかせてくれたのかな?
ちらりとツリー下を見る。
先に、渡すべき、かな?
何で、混ぜちゃわなかったんだろう。
テーブルの上にそっと小箱を置いておく。海も、ツリーもきれいに見える席。
ピンクのバラのつぼみが一輪飾られてある。深緑から薄い青へとグラデーションの一輪挿し。
誰の、心遣いだろう?
「鎮君?」
「あ、ちょっと待ってワゴン準備するから」
見つけたワゴンはなぜかクリスマスデコレーションされていて驚いた。
「昼近くまでは普通だったはずなんだけどなー」
「すごいねー」
笑いながら料理をワゴンにのせてテーブルまで運ぶ。
「わぁ」
「お?」
硝子の向こうでちらりと空を舞う白い欠片。
「後で、テラス、出てみる? さみーけどさ」
「やんじゃうかも?」
「んー。そん時は暖かい場所でのんびり雪を見ながら飯食いましたーってことで」
二人でもってきた料理をテーブルに移していくのは手際よく。
「ふっ、恒例のARIKA手伝いの成果がココに!」
言ってみたら、空ねぇが思いっきり噴出した。
「じゃあ、キャリアは私のほうが上だね」
「えー。勝てっこねーじゃん」
ワイングラスにりんごジュースを注いでちょっと背伸び。
雰囲気だけでもかっこよく。
『乾杯』
空ちゃん借りっぱ中!
海ねぇのケーキがデザートに!




