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12/7 ツリーの飾りつけ

「今日会えて嬉しかったな」

 ふわりと彼女の黒髪が揺れる。

 結ばれた白くてひらひらしたりボン。

 だぼっとしたトレーナー。ネイビーのタイトスカートは踝丈。

 ポンッと彼女の手が頭を撫でる。

「大丈夫だよ。ちょーっと誤解されてるだけだよ?」

 彼女の声は優しい。

「きっとね、会えて、嬉しくて舞い上がっちゃったんだねー。すぐじゃなくていいんだよ。ゆっくりでいいんだよ? 言葉と心って難しいよね」

 ビッと指を突きつけられる。

「あのね、…………だよ!」

 言葉が聞き取れない。

「じゃあ、行くわね。またね」

 彼女はそう言って踵を返す。何度も振り返り手を振ってくれる。


 それを立ちすくみ見送るしかなかった。

 ……ちがう。

 あの時慰められて撫でられて安心して。

 別れて駅に向かうために歩き出したときに車道の向こう側で悲鳴が上がって。

 そっちを見て飛び込んできた光景は男が血のついた刃物を振りかざす姿。

 通りすがりの誰かの手が道を行く車の流れが、その先を隠した。




 しゅるりと指先を何かがよぎった。

「おー。シアちゃんめっずらしー」

 珍しく懐いてくれた蛇を軽く撫でる。

 これがサマンサちゃんなら抱きしめていたところだ。

「よし。シアちゃん、チビどもよろしくー。ちょっくらバイトがあるか聞いてくるぜー」

 あんな夢見たのは昨日書いてた手紙のせいかなぁ。

 机に置いてあるモノをなんとなくポケットに放り込む。

 それは『おまけです』と言って渡された紫色の石。

 旧水族館の厨房で灯りが見えた。

 吐く息は白い。


 結局半区画ほど新聞の配達を手伝って(二千円ゲット)自宅エリアで朝食準備(ドーナツ)揚げ揚げ。

 隆維の友達らしい郵便屋さんを招待しての騒がしい朝ごはん。

 手作りオーナメントを隆維が掲げた時点で本日拳骨二発目。体調不良で休んでる時はおとなしくしていろ。

 隆維がびーびー泣いてるうちに海ねぇたちが来てちょっと非難の目を向けられたが、理由を説明で納得してもらった。

「ツリーの準備するんなら」

 千秋の言葉に安全ピンを外す。忘れるとこだった。

「ほい。はずした」

 海ねぇ達は基本夏場にしかいない。

 一緒にクリスマス準備って言うのが少し楽しい。

 ぐずぐず泣き止んだ隆維が渚ちゃんや海ねぇにウチのプレゼントシステムについて説明している。

「もちろん、ねーちゃんたちや汐ちゃんにも家族枠でプレゼント用意していいよね」

 にっこりと涼維が笑う。

「家族枠?」

 空ねぇが不思議そうに聞いてきた。

「贈りたいものを贈るってだけ。かな?」

 金額気にせずにね。

 

 空ねぇが差し出してくれるオーナメントを飾り付ける。

 どの位置に何を飾りつけるか。いろんなとこから希望指示が飛ぶ。

 合格が出たりブーイングが出たりにぎやかに時間が過ぎていく。




◇涼維◇


 ツリーの飾り付け。

 オーナメントや綿雪を飾ってゆく。高いところの飾り付けは鎮兄が率先してやっている。

 アシスタントは空ねぇだ。

 いい機会だから、隆維と一緒に海ねぇにプレゼント交換システムを説明。ついでに家族枠で準備していいかを確認。芹香もちらちらこっちの様子を見てる。

 聞こえたのか、ちらりと鎮兄の動きが止まる。


 鎮兄は金額気にするからなぁ。



 うち以外のちびっ子にも気を配らないといけない。結構宗一郎さんが見ていてくれているから助かるなと思う。

 父さんは裏で総督に帳簿を突きつけられて詳細追求されている。

 総督と基準の幅がかけ離れていたらしい。

 父さんは「めんどくさいなぁ」って笑ってた。

 総督って赤字が許せないらしい。

 たぶん、総督が正しい。

 ちびっ子の面倒を見てウロウロしてたら、ふと隅でうたた寝してる隆維がいた。

 最近、体力ないからなぁ。

 郵便妖精さんこと、フィル君にはしゃぎすぎたのか、みあとのあがそのそばで丸まっている。

 ああ。

 鈴音ちゃんも疲れちゃったのかな?

 うたたね組に混じっていた。



◇千秋◇


「空ねぇって、二十五日あいてる?」

 さくりとそんな声が聞こえた。

 鎮、普通共同作業中に聞くか?

 せめてひと気のないトコで聞けよ。

 まぁ、ちびっこは『サンタさんへのお手紙コーナー』用の手紙書きで盛り上がってるから気がついてないけど。

「う、うん。あいてるよ」

 空ねぇの顔が少し赤い。

 そういう様子を見ていると、けしかけておいてなんだが、気にかかるというか、心配。

 空ねぇは穏やかで優しい。

 そして、物事に一生懸命。つまり真面目で一途。


 だから、どんなつもりでデートしているのかがふいに気になった。


 多分鎮の方は身内同然の相手とじゃれているという認識だと思う。

 でなければ、好きな相手と一緒に出かける。その時点でデートが成立してると思うから。

 それとも『特別』だとどこかで思っているんだろうか?

 鎮の好意はよくわからない。


「終業式終わってから、一緒に遊ばねぇ?」



 ……


 鎮。誘い方はそれでいいのか?

「ほれ」

 海ねぇがドリンクを差し出してくれたので受け取る。

「ありがと。三回目のデートのお誘いがアレってどうなんだろう?」

雰囲気ムードはないねぇ」

 くくっと小さく笑う海ねぇ。


「なぁ」

 海ねぇの声が少し低い。

「なに?」

「いつからおかしいんだ?」

 瞬間意識が白くなる。

 見下ろすグラス。

 しくじったのがわかった。


空ちゃん、海ねぇ借りてます!

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