プロポーズ20回目
ゆっくりと食後の煎茶を飲む。
「桐子。結婚しよう」
ふわりと彼女は微笑む。
「潤には、もっといい人がいると思うの。私はオバさんだしね、潤は子供だって好きじゃない」
両手で湯呑みを包み込み困ったような表情を作る。
「桐子がいいんだけど?」
「でも、潤。いつまでこの町にいるの?」
「桐子?」
「だって、貴方はフラリと出て行っては戻って来るわね。いつ、戻ってこなくてもおかしくないくらい私は貴方のことを知らないの」
「えっと?」
「風峰潤。ええ。名前は知ってるわ。お酒も好きよね。整理整頓や庭の手入れも意外に得意。お料理はレトルトオンリー。それでも凝った料理を食べるのも好き。新商品のお菓子には必ず手を出すわよね。面倒見もいい方で、お人好しなところも調子のいいところも好きよ」
「よく知ってる」
「ねぇ。潤」
「ああ」
「あなたのご両親はご健在なのかしら? 兄弟はいたりするの? どんなお家で、何をなさっているのかしら?」
「桐子」
「本当に、よく知っているのかしらね?」
気分が流石に沈む。
確かに家族の話なんかはしてなかった。
ただ、桐子と過ごす時間が楽しくて。
仕事とか家族とか関係なく、桐子と俺って付き合いで終わっていて、他の家族なんかのことはめんどくさくて放置していた。
実家の事だってめんどくさいからだ。
本人同士のコトに家族の話を混ぜて、嫌な思いはしたくなかった。
もちろん、桐子の家族の話は楽しく聞いたけど。
そう言えば、あいつって高校出てたっけ?
このままうまくいっていない状況だと部屋借りなきゃだしなぁ。
いっそしばらく、
「らぎあちゃん、らぎあちゃんのアパートに転がり込んでいい?」
「困ります」
椹木くん、いつもながらきっつい。
受付事務所のソファーで資料を読みながらぐだりぐだりと過ごす。
「んー。天狗仮面ってさー」
「はい」
「高校出てると思う?」
「…………流石に出てるんじゃないですか?」
「そっかー。誘ってみようかと思ったんだけどなー。ま! 声だけかけてみっか。らぎあちゃん、お茶淹れてー」
そう、声をかけながらノートPCに手を伸ばす。
メール画面を開いて兄貴にメール。
『あいつらまともに高校行ってたっけ?』
…
『引きこもりが行ってるわけないだろう』
一分待たずにレスがあるって、兄貴、仕事ちゃんとやってんの?
ついでに付随していたファイルを確認。
「兄貴に問題児押し付けられる!?」
くそぅ。待ち構えられてた感が半端ないぜ。
「兄弟仲悪いんですか?」
「んーっとなぁ。あいつら俺のこと見下してるんだよなー。参るぜ」
「ああ。ダメ人間だからですね」
らぎあちゃん!?
なんでそこで納得してんの?




