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12/2 うろな高校定時制事務所

「よっしゃー! 最低限、受付準備オッケー!」

 先輩の声に意識が遠のきそうになる。

「おー? らぎあちゃん、もうじき挨拶行くんだからしゃんと起きてなよー。みっともねーからさぁ」

「人をモンスターかなにかのような呼び方をしないでください」

 息が切れる。

「しかたねーなぁ。二時間ぐらいそこの影のソファーで仮眠してろよ。あそこはちょっと死角になるようになってっからさ」

 なぜそんな配置になってるかは突っ込まない。

 まさか、いきなり学校で一夜をあかすはめになるとは思わなかった。

 ソファーに崩れ、ちらりと先輩を見ると書類の位置をいじったり、こまごまと埃を取ったりという行動を音を立てずにやっていた。

 先輩どこの諜報員なんですか?

「まだ五時だし、一旦ウチで飯食ってくるわ。朝飯ももって帰ってくるからゆっくり寝てろー」

 昨日の昼から使用許可の出たこのうろな高校内の事務所で資料や必要書類の分類整理。

 必要備品の配置、OA器機の配線、初期動作確認。

 はっきり言って、先輩の邪魔をしていた自信がある。



「ほい、起きろー。昼の先生達に挨拶行くぞー」

 おでこに冷たい紙パックをあてられる。

「食って、飲んで、顔洗ってこいー」

 流石に先輩も今日はまともなスーツ姿だった。

「先輩」

「あん?」

 サンドウィッチを咥えつつ、机に座った先輩が振り返る。子供みたいだった。

 言葉に困る。スーツ姿を大人らしいと褒めるつもりだった気分が気の迷いだったと気がついてしまった。

 えぇっと。

 ええっと。

「黙ってただ突っ立ってたらかっこいいと誤解されそうですよね!」

 ポンと手を打って発言する。

「そうだろう!」

 先輩は胸を張って肯定した。

 この会話をどう続けていいのかわからないから流すことにした。

「あ。このサンドウィッチ手作りなんですねー」

「うん。今日も振られたー。なーにが悪いんだろうなー。これで十二連敗だぜー。やっぱ籍入れるだけは不満かー?」

 先輩、日常的にプロポーズ中ですか。でもあそこから改善されてないならよっぽどじゃないと無理だと思うんです。

 女性はムードも大切にされてる感も大事なはずです。

 『面倒だから入籍しよう』が根底に見えてしまっている状況では下手をすると余計縁遠くなる気がします。

「挙式とかしたいのかなー。興味ないようなこと言ってたんだけどなー?」

 先輩、式は女性の憧れです! 晴れ舞台です!

「挨拶のあとにみーちゃんにそれとなく聞いてみるかー」

 ん?

「みーちゃん?」

「ああ、彼女の友人でね、昼間の先生なんだ」

 へぇ。

 そういえば。

「会長が先輩はインテリ女性が好きってこないだ飲み会で言いふらしてました」


 昼の先生の一人である田中倫子先生は風峰先輩が定時制の事務員と知ってとても驚いていた。

 もしかして、彼女さんに本来の職業を知られてなかったんだろうかと思う。

 もしかして無職って思われてた?

 それは……

 先輩、ふられると思います。


田中倫子先生お借りしました。

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