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12/6 水月
ふわりと水泡が上がっていく。
天井には淡く差し込む月の光。
ほとんど使われてないエリア。
仰向けに転がって空を見上げる。
生物を棲まわせていない水槽群。
手を伸ばしても届かない月。
差し伸べられる手が見える。
その手がとても暖かそうで。
その手を取ろうとして
濡れるものに気がつく。
「大丈夫よ」
彼女は優しくて穏やか。
手を伸ばしてはいけない。
「だいじょうぶ」
彼女は暖かくていい匂いがした。
「おにーちゃん、こんなとこで寝てると風邪引いちゃうんだからね!」
「芹香」
抱き締めた妹は小さくて暖かい。
赤い記憶が遠ざかる。
「大丈夫だよ」
冴えた月の光に似た灯りに翻る。
伸ばされた手は、
取ろうとしてはいけない。




