研究会
11月半ばあたりうろな高校定時制事務所にて
「さて、うろな高校チャレンジスクールオープンの準備も大詰め」
くるりとこざっぱりした事務所を見回す。
「潤。生徒候補は目星を付けれているかな?」
「最近は夜学にもいろんな呼び名があるよなー。大阪の定時制から編入予定者一人は確定。三学期がまともにあれば出席日数不足は免れて進級できるらしいし。あと、引きこもりで親御さんが是非入学させたいって言う生徒が一人二人。ただし、こういう生徒は脱落率が高い。コンビニのバイト君は入ったら続けてくれるんじゃないかな? 後は不良系の子達をどこまで巻き込めるかだけど、他の子への影響とかがわからないよなぁ。どこまでやる気を出させれるかって感じ?」
椅子に座ってのんびりと書類を分類しながら答えるのは風峰潤。
数年前からうろな高校定時制をスタートさせるための調査員としてうろなに赴任していたはずの人物である。
だらりとした感じの人物で、趣味は整理整頓に家庭菜園で珍種の植物交配に長期休暇を使っての未開地探索という妙な人物。もうじき三十歳になるはずだ。
まず、言わなくてはいけないことは、
「ふむ。とりあえずは副業は禁止項目だ」
「ま、学校が始まるんなら大人しく定時制の用務員兼事務員を勤めますよー」
「新聞配達をいきなり辞めて店の方は困らないのか?」
「友達を手伝って、飯を奢ってもらうのはバイトじゃないと思うんだ」
「先輩屁理屈です」
先ほどまで黙っていた一人がぽつっと発した。
椹木新、25才になる彼はうろな高校に仮置きさせてもらう事務所に詰めることになるメイン事務員だ。
本人も定時制を卒業し、通信制大学の講座を受けつつ勤めている。
「いーじゃん。別にさ。助け合いは大事だぜ?」
「それに不良なんて怖いじゃないですか」
新が潤に噛み付くのは珍しい。
「んー? 高校でといた方がいいかななんて思うのはまだ可愛い方だと思うけどなー。あと、隣町の定時制に通っていて挫折した生徒の名簿ももらってるんでパンフは送っておいたよー」
「で?」
続きを促すと輪ゴムで留めた書類をポンと投げてよこす。
「警察の少年課にもパンフは置かせてもらった。ついでに時々安全講習の講義をしてもらえると嬉しいと希望しといたり。なんだかんだ言って成人も多いと色々あるしねー」
「あの」
「どうした? 新」
「初年度なんですが、あ、プレオープン含みます。制服と教材費、うろな工場組合の方から二十名分は実質負担していただける旨、連絡受けてます。ですから生徒さんが負担するのは入学金と施設使用料の年間一万負担ですね」
「そこは譲れない線だよなー。自分で最低限金掛けてる自覚を持って欲しいよな」
「本当はもっと掛かってますからね」
しかし、初年度だけなら不公平感が強くなるな。
仕草で潤に促され、書類に目を落とす。
それは四年で卒業できた場合の返済不要になる奨学金制度の書類だった。
うまく回せれば卒業率の高い学校を目指せるかもしれない。
「俺なんか人生掛かってるー」
「捨て切っていなかったのか。職業斡旋もある程度できた方がいいんだがどうなっている?」
「マジこき使うよな安月給」
「んん?」
「新聞屋と工場の幾つかで余裕があるうちは受け入れてくれるってさ、商店街の方も低賃金になるかもしれないけどバイト受け入れは好意的、スーパーさんもね、モールさんの方はちょっと条件がありそうかな?」
その後もダラダラと話を詰める。
「じゃあ、私は帰る」
「定時帰りですかい」
潤がブツブツと文句をこぼす。
「プレオープンの時、教師ってどのぐらい集まるんでしょうか?」
新が不安そうに尋ねてくる。
「さて、どうなるかな? 少なくとも三名からは良い返事をもらっているよ」
少しほっとした表情を浮かべる新。
不安にさせてたなら不本意だ。
「なら大丈夫ですね! お疲れ様でした。会長」




