保健室で
ぱたり
そんな感じでベッドで寝返りを打つ。
「大丈夫か」
高橋先生の声がカーテン越しに聞こえる。
「大丈夫ならここにいないしー」
含み笑いが聞こえる。
「違いないな」
「でっしょー」
「で」
促される。
ココに入り浸るようになってからの習慣のようなものだ。
「授業中指名されたから立って答えようとしたら、真っ暗になって冷たいのが這い上がってきた感じ?」
「何時もの貧血か。今日は他に変わりは?」
えっと、
「今、腕がちょっと熱い?」
「それは転ぶ時にうった打ち身。痛いんだな」
あ。
これもそうなのか。
「痛い」
「熱かったり冷たかったりすると涙が落ちていただろう?」
頷く。
言いたいことが理解できたので頷く。
「めんどくさーい」
もらすと笑われる。
「普通は少しづつ、覚えていって大丈夫を見つけるんだ」
ふぅん。
「だからこそ人によって、大丈夫は違う。今の隆維は、ちょっとでもダメだろう?」
「マシになったよ?」
反論したら鼻で笑われた。
はっしーは『痛い』と言うコトがあんまり認識できてない俺に少しでもわかりやすいように教えてくれる。
打ち身や切り傷で熱いのは、そこが熱を持つから、怪我もないのに冷たいのは、心が痛いから。
俺にいろいろ話させて、『痛い』コトを認識できる手伝いをしてくれている。んだとおもう。
「そういう意味では鹿島は強いな。ずぅっと痛みと向き合った上で笑えてるんだから」
「うん。…………スゴイと思ってるよ」
ポンと軽く撫でられる。
「お母さんの件、どう思っているのかな?」
聞かれて首を傾げる。
「父さんと母さんの離婚の話なら、一時的なものでどうせまた復縁すると思うし、今までだってほとんどいなかったんだから何も変わりはないかなぁ」
「冷たいか?」
「え?」
見上げれば、視線が合う。
「うん。イラナイって言われるのは冷たいよね。他の方が大切って言われるのも冷たいかなぁ」
尋ねられれば答える。
なんとなく作られた習慣。
答えてから、あんまり言いたいような言葉じゃなかったなと思う。
だから、頭の冷静なところで「失敗」の文字が走る。
「だけど、要ると言ってくれる人もいるだろう?」
「ぱてぃは要るッて言ってくれる。でもね、ぱてぃが居なければ、気がつかないままだったかもしれない。俺や涼維のところに帰ってくるより、誰かが生き残ることを優先したりすることがなければよかったのに」
わからなくなる。
でも、
誰かを助けるために自分の命を捨てることすら厭わない。それは同時に俺たちの事を捨ててもいいと思っていたんだなと感じた。
ぱてぃのことは大好きだけど、同時にまわりが父さんのことを忘れさせてくれなかった。
『命をかけて助けてくれた』『立派だった』
それって俺たち子供を省みなかったんだよね。
ぱてぃを助けに行かなかったら父さんは行方不明にならなかったんだよね。
どんなにまわりが『正しい行為』と言っても、卑怯でずるくてもいいから帰って来て欲しかったんだと思う。
まわりが褒めるたびに父さんが嫌いになった。
だってどんなに立派だったとしても、結果は俺たちを『イラナイ』って捨てたんだから。
そう感じた記憶が確かにあって。
『父さんがいなくなった』から『大切』にしてくれるぱてぃは『本当』に俺達が『いる』のかがわからなかった。
『父さん』も『母さん』も本質的なところで俺達のことを『イラナイ』
そんなふうに感じることはとても冷たい。
『好き』だから『イラナイ』って言われると『痛い』
それは明確な言葉じゃなくてもわかるから。
すごくイヤ。
こんなことを感じるのがすごく嫌だ。
「わかんないままでいたかったなぁ」
高橋先生、鹿島萌ちゃん(話題)。お借りしました




