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定時制高校を目指して

 


 ビビった。





 非常にビビった。


 なにせ、



 本社との連絡を終わらせるとデスクの横に双海工場長がぬぅっと立っていた。

 俺がびびって工場長を見ているとようやく口を開いた。

「沢嶋」

「工場長、どうしました?」

「日生の他に定時制高校に通う気のありそうな人材をどのくらい集められると思う?」

 話題はここ数週間の悩みの種だった。

「えっと、いつまでにでしょうか?」

「不確定でもいいから十二月半ば迄に少なくとも十名。他の工場長の方にも候補がいないかは打診してる」

 日にちがない。

 連絡が遅い。

 うちの社では残念ながらよくあることだ。

「十名と、いうのは?」

 だから、終わったことは気にしてはいられない。

 立てれる対策を立てていくしかないだろう。

「正式に定時制高校を成立させる研究会や来年度に向けての申請は通っているらしい」

 それはいいニュースだ。

 軽く調べたところ八月には申請を通しておかなければいけないはずだった。

「あとは生徒数だ。多部制単位制を採用している分、教師の拘束時間が増えているというのと、教師の新規雇用に応じた生徒数が居なければ続けてはいけないからな。とりあえず、十二月半ば迄に十名候補が上がるのなら試験的に三学期から受け入れてどういった方向性が最善か、どんな問題が発生するのかを確認していけるとのことだ」

 試験運用か。

 とりあえず、注目すべきところは。

「ウチで雇用するということですか?」

「いや、そこはこだわらない。そうだな。無職なら雇用しても構わないのは確かだ。その場合は通学費用はこちらが全負担できるしな」

 当社のルールに則ればその通りだ。

「まぁそうなりますね」

「今回は違ったとしてもスタートして欲しいのは切実だから、専用融資枠が計上されている。うちの労働力で無くても構わないわけだ。他の援助希望者と併せて卒業を四年以内に終えた場合、返済不要な奨学金制度とかもできそうだからなぁ」


「結構進んでるんですね」


「ああ。本社の奴、知ってたのに黙ってやがった」

「え?」

「……家族と話し合う機会を作れ。だとぉおお! 余計な世話だーー!!」

 いきなり怒鳴りだす双海工場長。

 家族の話題は結構禁句。


「いや、話し合いましょうよ。LOVE・ふぁみりあの奥さん優しいじゃないですか!」


「俺の娘が町の外の大学に行ってて、一人暮らし中だなんて聞いてなかったーーー!!」

 そこかーー。


 どうやらあんまりに帰ってこない。連絡をロクにしないせいで内緒にされたらしい。

 自業自得だと思う。

 二週間前に来た娘さんからのメールにも何も書かれていなかったとか。


 

 落ち着くまで数分。

 ああ、無駄な時間だった。



「何は無くとも生徒の確保だ。役場の方からも高校に通っていないがそのあたりの年齢の子や保護者に声をかけてくれるらしいが、沢嶋。勧誘員として頑張ってくれ!」


「え!?」


「間違っても変質者として職質されたりしないように!」


 まず、役場と警察に相談しよう。そうしよう。



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