故郷に。
赴任予定地を聞いて、目の前にいる上司に不満をぶつけかけた。
『うろな町』
一人娘を父親に預け、ほぼ十五年ほど帰っていない町だ。帰れば姉にまずこき下ろされる。
恐ろしい。
「一人前になったんだし、ほら、立場も工場長だし、生まれ故郷なんだろう?」
若かりし頃やんちゃをして過した町だ。
「海のそば過ぎませんか?」
「本社工場よりましだね。専門家も危険は少ないと言っているし。まぁ問題と言える点は、学校機関が充実しているとは言えない点と、託児施設の問題でパート主婦を掴みにくいかもしれないというところか」
悪あがきに対して町のマイナス点を連ねる上司。
それはそれでムカつく。
「はぁ」
「まぁ定時制・理想は多部制学校の町内発足な訳だしその可・不可は本社から尋ねておくさ。数年内に実現すればめっけもの程度に思っておくのがいいだろう」
「つまり」
「いざとなれば託児所は社内に作れ。その場合、小児科医と保育士の確保が必要になるから、工場医の雇いれ時に条件に入れておこう。現状ではそんなところか。他はあるか?」
「生徒の候補者のリストアップは必要ですか?」
「まぁこっちへの提出は適当でいい。がんばってスカウトしてやれ」
だからこその地元出身者抜擢か。
「日生を連れて行くのはどうかと思うんですが?」
あの子は地元の定時・通信併用の単位制高校に通い、三年での卒業を目指していたはずだ。
学費教材費等の学校経費は会社から支給される。
よっぽどでなければ五時上がりでそのまま登校。
繁忙期には残業が発生するがその代わりに閑散期に有休と就学休暇で補習を受けたり、通信制のネット授業に励む時間をとれるように配慮する。
このシステムをよく利用して、どうせなら早く卒業して仕事に専念したいと言ってたような子だ。
「んー。仕方ないだろう? 同等それ以上の技能を持ってるのは子持ちの主婦パートとメインプログラム、設備改良の担当者だけだぞ? 他にいた作業可能社員は三ヶ月前に別の部署で潰されてロクに引継ぎなしで逃げるようにやめたし。高校は九年以内に卒業できればいいだろう?」
九年って。
「鬼か?! あんたはっ!!」
「ま。うろなのそばにも定時制高校はあるだろう?」
距離があるし、その上であまり良い評判を聞かない。それに結構距離があるのだ。乗り継ぎとか。
「それに通信制一択でも四年で普通に卒業はできるんだ。問題はないと思うよ? 費用負担は気にする必要もないんだし。こちらの責任だしね」
できるだけ早期に『うろな』に定時制高校を!
地元に帰ったらまず姉貴かぁ……
って八月に帰ってきてもう十一月。
実家にも、姉にも会いに行っていない。
正直、恐ろしい。
しかし、署名活動やパートの紹介とかは姉の人脈をあてにしたい今日この頃。
近隣の工場長達の『そろそろいけよ~』という生ぬるい視線も辛い。
ああ。へたれていたい。
帰ってきて何ができるのか。
姉の存在は恐怖。
それ以前にパート・アルバイト募集中
お子様の体調不良時は連絡くださればOKです。




