クエスト! セイレーンとのデートを成功させろ! あれ?
あれ?
コンビニで買った中華まんをかじりながらの公園のベンチ。
「うーん。少し空回った感じかなー?」
「楽しかったよ」
くすくす笑いながら空ねぇが言う。
吐く息が白いのは暖かい中華まんのせいなのか、気温が低いせいなのか。
最近人気のビストロは混んでいたし、じゃあ、クトゥルフにでもと向かえば、なにやら人が多く、かつ、早い時間だというのに酒が入っているようで避けたのだ。
結果コンビニの中華まんと自販機のドリンクで体を温めている状況。
「俺さ、どうも先のことが見れないんだよねー。おばさんは夏が終わるまでに何をしてみたいか考えなさいって言われたけどさ。思いつかないんだ。したいことが思いつかない。うろなに、ココにいることは好きだからここにいたいと思うんだけど、それだけなんだ」
肌寒いなと思ったからかばんに一応入れてきた保険、カーディガンを空ねぇに羽織らせる。
「夏も終わってるのにね」
空ねぇは聞き上手。
横に座って、軽く俺にもたれて、落ち着けるように体温をくれる。
「そういっちゃんが友達になってくれる気がないのはなんとなくわかってるんだ。そうだとしてもさ、俺は中途半端だから。せめてしたいことを見つけたいんだけどさ、わかんないんだよね」
空ねぇの体温を感じながら短い夕暮れ(曇りのせいでより短い)を終え、濃紺の藍空に暗い灰白の雲が広がる様を見上げる。
「時間だけが過ぎて何もまとまらない感じ、かな? 本当に目の前のことだけに当たっている状況だからふと気が付いたときに何も見えないことに気がつくんだ。気がついただけいいのかなぁ。なんて前向きに考えてみたりもするんだけどね」
作り上げた気になっていたものがぽかりと何もなくなってるかのような。そんな感覚。先に繋がらない、意味のないことにだけ力を注いでいるようなこわさ。
「大丈夫だよ」
その言葉に上げていた視線を下げる。
澄んだ黒い瞳が俺を見上げていた。
「でもね、」
「でも?」
ひたりと頬に手を添えられる。
あ、ちょっと冷えてきてる?
「聞いてね。鎮君」
意識をそらしたことを叱られる。
「聞いてる」
「もぅ。」
怒ったように、仕方ないなぁと言うかのように声を漏らして空ねぇが立ち上がる。
横にあったぬくもりが消えて一気に寒くなる。
「もう少し、自分のことを好きになってあげなきゃダメだよ」
ふわりと髪を撫でられる。
「うーん。難しいかも」
出かけた肯定の言葉を打ち消して『本当』を伝える。
大丈夫と、普段どおりに行動することは簡単だけど、俺なりの誠意を持って『本当』を伝える。
「冷えるし、暗いし送っていくよ。なんかさ、デートとしては最後の〆がよくなかったよねー。今日は楽しく過してもらおうと思ってたのになー」
「楽しかったし、『ちょっと話したいことがあるから時間をとって欲し』かったんだよね。約束どおりなんだから問題ないと思うな」
くるりとその場で回る。やわらかなラインのスカートがゆるく広がる。
追うように揺れるカーディガンの袖。
「ごめん。帰るまでがデートだよなー。気分を害するような対応を心からお詫びします。お許しいただけますでしょうか。空姫様?」
膝をつき手を差し出して尋ねてみる。
驚いたのか、眼を見開いた空ねぇ。次の瞬間、ふわり笑った。ほんの少し、いたずらっ子の表情で。
「許してあげます。立ってエスコートをすることを命じます」
澄まして差し出された手の上に手を重ねながら告げる。
「喜んで」
粛々と従い、立ち上がる。
数歩進んで、二人で噴出した。
クトゥルフお名前だけ借りてます。




