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11/11 お土産はスティック菓子

 擦り寄って眠る妹を見下ろす。

 ハロウィンの夜に鎮に『トリックorトリック♪』と卑怯なマネをされ(元々お菓子はもらった分しか持ってなかった)くすぐられながらされた原典のわからない謎の怪談(スプラッタホラー)。だから鎮、スプラッタはやめろよ。と言いたい。

 言っても聞いてくれないんだけど。

 そこからセリカが夜になるとコッソリ部屋に来る。

「一緒に寝てあげてもいいわ」

 うん。ベッドの下のモンスターが怖いんだよね。

 おかげで、意外と一人の時間が少なくて、面倒だなとは思う。


 母さんのいきなりのワガママな命令で共同作業の夕食作り。

 手を動かすのは好きだと思う。

 ミアとノアが食べやすいようなサイズを心がけて作る。

 味付けは基礎の教本通りに。アレンジはしないで鎮に指示。

 そんな週末を過ごしてあけた月曜日学校から帰るとおじさんが帰っていた。

「お土産」と称して渡されたのは海外仕様の日本のお菓子。スティック菓子詰合せだった。

 ミアとノアがべったりとおじさんの背中に張り付いている。








 夜にぼーっとしてるとおじさんに声をかけられた。あれはまだ十月も末、ハロウィンの前。

「ちあきー♪」

「おじさん?」

「あんまやりすぎっとしめるぞうら。なーんてな。おじさん、ちょっと酔っ払いー」


 ちょっとどころじゃない強いアルコールの匂い。よってるが故の荒い発言。明日覚えてるのかなと思う。

 覚えていてもきっとなかったことになるような気はした。


「そ、そう」

「んじゃ、ちょっくら泳いでくるー」


 おじさんがひらりと手を上げて浜へと向かう。

「えっ?! よっぱらいじゃあ!?」

 慌てて引き止める。

 おじさんはちらりと一瞥すると、あとはひたすら海を眺める。

「あー。好き勝手ふざけたこと言いやがって海に沈めてサメでも呼びつけたくなるよなー。温厚事なかれ主義の日本人気質舐めんじゃねーよ。あー。散らかしたモン、片付けんじゃねーぞ」

 サメなんか召喚できるの?!

 おじさんって温厚なの!?

 片付けんなってなんでだよ!?

 突っ込みどころ満載な発言。

 それよりもなによりも、

「あ、危ないって! 酔ってんだろ?」


「酔ってるよ? んでさぁ、怒ってるよ? あの女が暴走系で困った女で俺がいなきゃダメなんだよ」


 声を荒げてるわけでもなく、意識が遠いような言葉の羅列。

 ただ、吐き出したいだけの心の羅列。

 それは、そんな心は、記憶に新しくて。


「おじさん……」



 切ない。




「俺は戻ってこない方が良かったんだろうな。そうしたら、ミアはいなかったし、ノアを生かすこともできなかっただろうけど、他の誰かが助けたかもしれないし。隆維と涼維はあいつがそのまま可愛がってたろうさ」


 話がわけのわからない方向に飛ぶ。


「ぇ」




「会わなければ良かった。本当に俺を欲しがったのはあいつだけだった。出会いがすべてを狂わせる。進むのをやめた? 見るのをやめた? 惚れてくれる女との生活だけを望むのはすべてへの逃げに映るのか。ぁあ、確かに甘えか。そーか、そーだな。それはしかたないっかー」



 よくまとめることが出来ないうちにおじさんの中でいろいろ進んでいく。

「おじ、さん?」

 ひとしきり言葉を吐き出したのか、ふらりと足を進める。

「おじさん、」

「あー? 止めるのか?」

「とめない。ただ、お、僕はおじさんが戻ってくれてよかったと思ってる。おじさんが戻ってきてくれたから、うろなに住んで、サツキさんに会えた、から……」

 おじさんが帰ってきてくれたから、ここにいれる。

 この町で出会えた。

「ちあき」

 だから


「どんなふうに別れがあったとしても、それよりも!! 会えなかったかもしれない方がいやなんだ!

 過去なんかどうでもいい! 起因がなんであるかなんか僕には関係ない! 今僕はココにいて、この町に住んで、サツキさんを、好きになって。サツキさんが好きで、サツキさんにしか色を感じられない」

 ポンと、頭の上に感じる重み。

「すき、なんだな」

「……うん……」

 おじさんの声は優しくて心の隙間に染み込むように哀しくなる。



「おじさんはねー。惚れてくれているから好きなんだよねー。うっとおしくてわずらわしいけど、満たしてくれる。彼女が酷いようにあいつは言うけど、俺だって大概なのになー、何を夢見てるんだろうなって思うなー。ちあきー」

 あいかわらず突っ込みどころ満載な発言。

 言葉は連ねているだけ。母さんもおじさんも自由でわがままだ。

「うん」

 あんまり見せてくれない本質(ところ)を見せてくれるのが嬉しい。騙されてるような気がしないでもないけど。











「うらやましいから死ね」








 !?








「!? なにそれ!?」


 わからなくてパニックになりかける。


「嘘だよ。うらやましいのは本当だけどな。ありがとうな。そして、よかったな。サツキさんに出会うことができて」

 おじさんの手がゆっくりと動く。

「うん」







「じゃあ、泳いでくる」

 海が呼んでいるぜとでも言いそうな風情で海を見つめるおじさんの服の袖をそっとはなした。


「見つからないようにね」

 それだけ告げて見送った。

 翌日、予想通りなかったように振る舞うおじさん。

 そのままの時間が数日過ぎて、おじさんはふらりと家出をした。





「おかえり。このお土産じゃどこ行ってたとかわかんないね」

「気にするな。また出るし」

「何してたの?」

 好奇心だった。

 答えたくないのか、しばし沈黙。

「ハウスクリーニング。と子守かな?」

「はぁ?」

 何しに行ってたの?

 マジで。

「おかげでかなり落ち着いたかなぁ」


 おじさんがわからない。

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