11/5 昼休み
「あ!」
さらりと黒髪が視界の端をよぎった。
ひとつ上の少女がこっちを見てふわりと微笑む。
「芦屋先輩、稲荷山先輩もこんにちはー」
「こんにちは。元気だった?」
「ちょっと風邪こじらせて休んでましたー」
そう言うと表情を曇らせ、覗き込んでくる芦屋先輩。
「大丈夫?」
「寝込んでたの長かったから少し、体力落ちちゃったくらいかなぁ」
「そうなんだ」
「あのね、先輩」
「なぁに?」
「なにかしてくれたでしょう?」
「あ! うん。もう大丈夫だよ! ちゃんと退治したから!」
明るく朗らかな芦屋先輩のむこうで稲荷山先輩が軽く苦い表情を見せる。
それにしても本当に最小限会話だとお人形みたいだ。それじゃあつまらないからこれでいいんだろうけど。
「お礼を言おうと思ってて、兄貴達がなんか一回めちゃくちゃ掃除が大変だったって言ってたけど、そこからお供えが無くなることがなくなってるんだって。きっと何かが居たんじゃないかって俺が言っても夢があるなって取り合ってくれないけどさ」
意識して呼吸を整える。息が切れる。
「不自然にかえってくるものなんか良くないものだし、終わってよかったんだと思うから」
このぐらい平気なはずなのに息苦しい。
終わって良かったんだ。正しい状態になっただけなんだから。
「あれー? 思ったより体力落ちてるー。だから、えっと、ありがとうございました」
お辞儀をしたら視界が端からじんわりと暗いものに侵食されていく。
「おい!」
ちょっと遠い場所から稲荷山先輩の声が聞こえる。
「大丈夫か?」
何とか頷く。
「タイミングが外れ過ぎたらお礼も言いにくくなるしって思ってたからこれで気分のつかえがひとつ減りましたー」
仕方ないなぁって表情で芦屋先輩が笑う。
「当たり前のことをしただけなんだからね。日生くんは無茶しちゃダメだよ」
「はーい。わっかりましたー。さっ次は、清水先生にお祝いを言いに行くんだー」
「わかってねーじゃねーか」
心配そうにも聞こえる稲荷山先輩の不満そうな呟き。
「だって、やっぱタイミングは重要だと思うしー。ただでさえ鮮度が落ちてんのに休み明け当日に伝えなきゃがっかりだしー」
早く、終わらせたいし。
「それじゃあ。あ! メグ! 清水先生見つけた?」
方向転換した先にメグを見つける。そのまま声を掛けると仕方なさげに肩をすくめるメグ。
「隆維を見つけた感じ。清水先生、あっちにいたよ」
探されていたらしい。
「じゃあ行く! 先輩たち、それじゃあ! ありがとーございましたっ」
芦屋先輩、稲荷山先輩
豊栄巡君お借りしました。




