10/28 逃亡禁止
戸津信弘
「どうしてこうなってるんだろう?」
車から降りて疲れたようにぼやく暁君。
「あーにいは諦めるがいいと思うなー」
「飛鳥ちゃん……」
その様子に制服テイストの私服の少女が笑う。
日生飛鳥。
暁君の育った『家』の、暁君、沙夜香ちゃん達の妹と説明された。
「飛鳥はー。さーねぇちゃんとガールズトーク♪ スイーツ女子会やもーん。私のおごりで。しゃーないよなー。さーねぇちゃん今ぷーやしぃ」
「飛鳥……」
沙夜香ちゃんに『生意気』とこめかみをぐりぐりされている。
平日の昼間に町中にいる理由を聞けば、
「本格的な勤務が十一月の連休明けからの予定でそれまでは町に慣れるようにって時間を貰ってるから」
と、笑って答えてくれた。
仲のいい姉妹だと思う。
「すみません。信弘さん」
その様子を苦笑しつつ眺めてた暁くんが気遣ってくる。
「いや、ところで詳しくは聞いてないんだけど?」
「さーやちゃん?」
「ああ、きた来た」
そう言って奥から歩いてくる外人らしい男性に手を振る沙夜香ちゃん。
彼の方も人懐っこい笑顔で片手を軽く振って寄ってくる。
じりりっと沙夜香ちゃんに発言スルーされた暁君が後ずさったのを感じた。
そういう逃げの姿勢は彩夏ちゃんと兄弟なんだなと思わなくもない。
「どうも兄をお預けしますね。こちらはうろなでの兄のお友達で信弘くんです」
暁君の腕を掴み、彼に引き渡しながら沙夜香ちゃんはにこやかに僕を彼に紹介する。
「よろしく。ラフと呼んでください」
彼はにこやかに名乗り力強く握手を交わす。
「よ、よろしくノブと呼んでください。日本語お上手ですね」
「アーサーの母国語ですからね。勉強にも熱が入ります。ノブ?」
発音の確認のように呼ばれたので頷く。
ラフは満足そうに笑うとその笑顔のまま暁君をハグしてその背を数回叩く。
「アーサー。会えて嬉しいよ! バーで軽くやってから部屋呑みで酔いつぶれてくれ!」
「ラフ」
アクションの大きさとその発言に困ったような表情の暁君。
軽い仕草で暁君の顎に手を添え、顔を上げさせて視線を合わす。
「うん。相変わらず美人だね」
あれ? 困ってるのはアクションじゃない好意か?
満足そうに笑うと暁君の髪をいじりつつ、沙夜香ちゃんの方へ視線を転じる。
なんだろう。暁君、少し引きつってる。苦手なんだろうか。わからないでもないが。
「妹さんも思ったとおり美人だ。お目にかかれて光栄ですよ」
「まぁ」
「早朝からの電話対応には感謝してますよ」
「いえ。家族のことですから。好きなだけいじめてください。問題ありませんわ」
「え?」
さわやかで一見普通なラフ氏と沙夜香ちゃんのやり取り。
沙夜香ちゃんが僕を見て笑う。結構目がマジだった。
「信弘くんも、ラフさんを手伝ってあげてね」
「よろしくーノブ」
何があって身内をそこまで怒らせた? 暁君。




