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10/26 夜の浜辺 芹香と隆維の密談(回想)

 外へ出て行くのが窓から見えた。

 その後ろについている人影はなくて。

 ベッドから下りると眩暈がした。

 そのまま外に出ると結構寒かった。

 窓から見えた方向に向かう。

 何時もは平気な距離が少し苦しい。

 浜辺で座って波を見てるその背後に回る。

「セリ」

 出た声は思ってたより小さい。

「なんか、いろいろおかしいよ」

 それでも、ちゃんと聞き取ったセリカは膝を抱えた姿勢で呟く。

 その横に座る。

「いろいろおかしくても最後には落ち着くべきに落ち着くと思うよ」

 頭を撫でてやればつるりと銀に近い金髪が指を滑らせる。

「今がイヤ」

「んー。でもさ。コレが最善に近かったと思うんだ」

「どこがっ!?」

 セリカが怒って吠える。

「『神頼み』ってどう思う?」

「神様は感謝を捧げる存在で、頼み事をする存在じゃないわ」

 キッパリ言い切るセリカの声は迷いがない。

「神様は助けてくれるんじゃなくて、見守っていてくれるんだよ?」

 じゃあ、助けてくれた見えない『てーて』。彼女は誰だったんだろう。

 透明な水と蜂蜜色の糸のむこうに見えた青緑の影。

 その影が助けてくれたのを知っている。

 伸びてきた手は優しくてとても嬉しかった。

 時々、そばにいてくれるのを感じた。

 見えない『てーて』

 その呼び名を教えてくれたのは、『パティ』

『おばあちゃん』を意味する言葉。

 子供を護る女神様を親しみをこめてそう呼ぶのがいいと教えてくれた。

 花と感謝を供えて海に消えたモノを悼めばそのシルシが返ってくることもあると云う。

 還らぬモノに嘆く残されたモノの心を慰める女神様。

 あの時、海に船ごと飲まれたという父さんの生存は絶望的だったと教えてもらった。

 それでも母さんは父さんを諦められなくて海水に沈めた。

 パティは父さんも母さんも親としては幼過ぎたと言っていたけど、よくわからなかった。

 ただ、母さんは父さんだけが大事で摘み取ってもかまわないモノとしか見てくれてないと感じた。

 そこから父さんと暮らすようになるまでパティのそばで過ごした。

 パティを救助した時に父さんはパティの船から脱出出来ずに嵐の海に残された。

 それはパティの家の相続騒動。


 真っ暗な中聴いた海鳴りと潮の匂い。

 熱くて寒かった。

 涼維が抱きしめてくる感触が遠かった。

『ナンデモアゲルカラりゅーいヲタスケテ』

 ダメだと思った。

 りょーいから何か奪われるのはイヤだった。

 でも、あの瞬間は大丈夫だと思った。

 青緑の影が優しく抱きしめてくれたから。

 次の記憶はパティの腕の中。

 無事で良かったと抱きしめて喜んでくれた。

『無事で』『怪我がなくて』良かったと。

 あの日から『痛い』ということがわからなくなった。

 転んで切った傷から血が出ていて涼維が泣いて。

 気が付いて泣くのは涼維だった。

 ただ、そういう時は青緑の影が手を伸ばして撫でてくれた。


「隆維おにいちゃんは神様に助けてほしいの?」

 セリカがぽふりと肩に頭をのせてくる。

 温かいと思う。



「さぁ、どうだろう」




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