職場
食べ終わった頃にしーちゃんがきた。
開口一番が「食い終わったトコかよ。おそっ」で気分悪かった。
ご馳走様を言ってオアイソしてもらってお店を出て二人で歩く。
「緊張状態で地下鉄乗ってたからちょっと酔ったんよ」
「大丈夫か?」
心配の言葉には小さく頷き、息を吐く。
「最悪やねん。職場の先輩のせいでラーメン半分伸びてまうし」
「食事中ですって言ったのに?」
「ん? そういえばゆーとらんかったかも」
しーちゃんが責めるような眼差しで見てくる。
「それってさー、わかんなくね?」
「うっわー。しーちゃんなのに生意気ー」
あの頃は泣き虫だったくせにー。
「飛鳥ちゃんを見下ろせるくらいに大きくなったからなー」
ふふんっと意地悪こく笑う。
昔はこの双子の方が少し低くて散々『チビ』ってからかった。素直じゃない年頃ってそんなものだと思う。
「あー。昔は見えへんかったもんねー。声はすれどもーって感じでさー」
「そこまで小さくなかったって。つーか、どこの芸人やねん」
「うわっださ。テンポ悪っイントネ変っ。しーちゃんセンスないわー」
「……飛鳥ちゃん」
傷ついた眼差しで見られてもね。
「そっちなんかあった? それとも聞かない方がいい? ちーちゃんと会わないように避けてもいいよ」
「え? すぐわかるだろ?」
しーちゃん。
「六年、会ってなかったんだよ?」
それがって表情で首を傾げるしーちゃん。
ちょっと待て。
「しーちゃん」
「おう」
「それは……、私が小四のあたりと微塵も変わってないっつー気かぁああ」
「変わってねーじゃん」
殴りかかると器用によけられる。
「まぁ、あとはさ、波織ねぇちゃん覚えてるからさ。やっぱ似てると思う」
地雷を踏んでいる自覚があるのか、軽く視線は外されている。
兄弟同然に過した小学校中学年。
一緒に過ごしたのは二年間だし、それとなくちーちゃん派としーちゃん派に分かれてるみんなの中で私はどちらかと言うとちーちゃん派で。
波織姉さんをはじめとした大人しく室内で過すことを好むのがしーちゃん派だった。
ため息をつく。
「判断任すー。どーせ、年末までこの町におる予定やしー」
「年末?!」
「ふふーん。マシンオペレーターなんだぞー。本社では他にできる人材が増えたからうろな工場でも導入するために二ヶ月集中で新規オペレーター教育なんだー。マニュアルはあるから、実際作業の実地説明員って感じー」
災害対策に工場地を分散させる方針。
南うろなの最寄。
うろな築港からは少し距離をとった商業地の中にある工場。
「じゃあ、しーちゃん、あそこが職場だから。またね」
「あ。がんばって。あとでメール入れとく」
「応援されたら緊張するやん。やめてーな」
文句をつけると笑われる。
「大丈夫だって。緊張するだけ無駄だからさ。いってらっしゃい」
ため息をつく。
深呼吸をする。
「ありがとう。いってきます」
守衛さんに挨拶をし、社員証を提示、先輩を呼んでもらう。
ここが新しい現場。
キャリアはアルバイトや仮採用期間を含めて一年半。
学校に行きながらという無理を聞いてもらっている。
二ヶ月短期な理由も学校のためだ。
本当なら半年から一年腰をすえてやってほしいとも言われてるという話を聞いた。
「飛鳥クン」
「沢嶋先輩」
「工場長に紹介と現場を軽く見ておくだろう? 設備はまだ設置完了していないし部品も揃っていない。本格稼動は11月の連休明け四日からになると思う。勤務日はそこからかな。資料はアパートの方に社外秘箱を送ってあるから、管理には気をつけて。三日の日に引き取りに行くから」
沢嶋先輩は話が長い。しかもさらりと問題発言が混ざっている。
「二十八日には返却します」
「そお?」
そのまま仕事の説明を聞きながらうろな工場長に挨拶し、沢嶋先輩と工場長に歓迎会と称して晩御飯を奢ってもらうことになった。
店は『クトゥルフ』だった。
チャーシュー麺とチャーハンとから揚げと贅沢に注文してみたら
「遠慮しなくていいのに」
と笑われた。煮たまごも追加してもらった。
遠慮はしてない。
『クトゥルフ』お借りしました。




