遅めのお昼
「なんでいんの?」
学校の廊下で遭遇したのは暗い赤毛、暗い緑の目、少し着崩した制服の男子生徒。
「担任による配慮」
「聞いてねーけど?」
「ちーちゃんにしか電話かけんかったもん」
「あ」
心あたりがあるのか気まずげに視線をそらす日生鎮・しーちゃん。
二年間寝食を共にした家族。
「うちに泊まるの?」
「まさか。これでもちゃんと自活してるんやから、変に頼る気はあらへん」
その言葉に不思議そうに首を傾げる。
「しーちゃんたちはしーちゃんたち。私は私。気にしたらあかん」
そういう会話を踏み越えて教えてもらった店のドアを開ける。
昼時間を少し外した中華料理店『クトゥルフ』お昼ごはんを食べつつ、しーちゃんの授業の終了を待つ予定。
「こんにちは。営業中ですか?」
「営業中アルよー」
「塩ラーメン一つ」
店名はともかく中華料理店はかくあるべきという店の構えだ。
チャーシューとかたまごとかトッピングメニューは気になるが電車代で思わぬ出費、これ以上の出費は抑えないとまずい。
と言うか、語尾に「アル」ってつけるような人マジいるんだ面白い。
格好もなんだか面白いし。
この町面白い。
「塩ラーメンお待たせアルー」
「おー。おいしそーう」
ラーメンを前に箸を持ち手を合わせる。
「いただきます」
---♪♪----
食べようとした瞬間、メールの着信が鳴った。
しーちゃんとか身内系なら無視だが、あの音は先輩だ。
泣く泣く携帯を取り出しメールを確認する。
内容は『電話して欲しい』
恨めしげに湯気を立てる塩ラーメンを見据えつつ、電話をかける。
『もしもし。飛鳥クンかい?』
着信表示確認せずに出てるんかいと突っ込みたくなりながら、ラーメンに視線を送る。
「はい」
『アパートや役場の方へは無事に行けたかい? 少し時間が取れそうだから何か手伝えることはないかなと思ってね』
「ありがとうございます。先輩」
ご飯が食べたいです。
『車で迎えに行こうか?』
「フリーパスを購入したので大丈夫です。終業時間までには事業所の方へつけると思います」
親切な申し出かもしれないが今日は購入したフリーパスを使い倒さなければ勿体無い。
ゆえに湯気の減ってくるラーメンを見ながら自分の仕事をしてやがれという心境に駆られる。
「それに道も覚えないと」
綺麗事で締め括りつつ、割り箸を弄ぶ。
『本当に大丈夫かい? もし、補導とかされたら、即連絡先として名前を出して呼んでくれたらいいからね?』
ラーメン。
「今日はいろんな証明書類持ってるから大丈夫です」
私の塩ラーメン。
『そう、かい? 気を付けてね。じゃあ』
通話が切れた事を確認して携帯をカバンの中に投げつける。
「話長いねん!! 伸びてまうやないかあのアホんだら地獄に落ちろっちゅーねん」
割り箸をパキンと割り、湯気の少なくなったラーメンと向き合う。
深呼吸。
あらためて。
「いっただきまーす」
伸びかける前に食べたかったと思えるほど美味しいラーメンだった。
『クトゥルフ』と店長借りております




