10/21 はんぶん
一人で学校に行く。
それはどこか心細い。
「おはよう。日生くん、あれ。一人?」
朝いつも途中で会う隆維のクラスメイト。
「うん。おはよう。隆維はしばらく休みかも」
「どうかしたの?」
「熱だしちゃって寝込んでる」
「えー。だいじょうぶ? お見舞い行っていいかなぁ?」
「ううん。お見舞いはちょっと遠慮してもらいなさいって父さんが」
「そうなの?」
頷くと彼女は友達を見つけたらしく駆けて行った。
何だか気が重い。
学校は変わりなく過ぎてゆく。
いつも通りで何の変化もない。
隆維の声が聞こえないのがすごく嫌だ。
「涼維、一人?」
「渚ねぇ」
不思議そうな表情。
「あのね、ちょっと調子崩しちゃったみたいで、いっつも元気なのにさー」
ついて出る言葉を止めるようにポンっと頭を撫でられる。
「隆維、退屈してるとかわいそうだから、早く帰んないと。またね。渚ねぇ」
早く、逃げないと泣きそうだった。
いないのは不安。
いつだっていなくなる準備をしているような隆維のそばは心細い。
抱き締められて安心して目を開ければ、いなくなってもいいように準備をしているように見える。
『大丈夫。平気だよ。こわくないから』
こわいことを理解できないのに囁く。
隆維は嘘つきだ。
ずっと知ってる。
そばにいて欲しい。
他に何もいらない。
他の家族だっていらない。
隆維だけいればいい。
父様ならいてもいいけど。
いなくなりそうな隆維がイヤだ。
他を見ることをそれとなく促し、距離をとろうとしてるように見える隆維がイヤだ。
どうやったらどこにも逃がさないで済むのかがわからない。
隆維。
帰りたいのに帰りたくない。
「馬鹿じゃないのっ?!」
勢いよくかばんで殴られる。
振り返れば仁王立ちの天音ちゃん。
その後ろでは千鶴ちゃんが目を瞬かせている。
「やりすぎ」
と救いの言葉を呟いてくれたのは渚ねぇ。
痛いのかなんだかわからない理由でぼろぼろと涙がこぼれる。
「ちょっと、さ、体調壊してるだけなのに、すっごくコワいんだ。こんなに離れてるのはじめてで」
病院側のベンチで泣き止めるまでと座って、必死に落ちつこうとする。
ちらちら見られて恥ずかしい。
「そっちの家の様子わかんないけど、大丈夫?」
千鶴ちゃんが聞いてくる。
「ミアちゃんと隆維が熱出してるから、ばたばたはしてるけど、ミアちゃんは学校行くってごねてたくらいだし大丈夫ぽい」
隆維は父さんを拒絶した後は目を覚まさない。
「隆維、は?」
しばらく考えるような沈黙のあと、渚ねぇがボソッと聞いてきた。
「隆維は、」
胸が痛い。
「土曜の晩から、」
苦しいよ。
「目を覚まさない」
青空渚ちゃん、お借りしましたー。




