10/18 隆維
すとんと力が抜ける。
「え?」
アレを殺すのは満月の日で。
それはまだ。だ。
なのにどうして力が抜けるの?
すべての契約が破棄される。
アレを殺せば依代にと要求された妹は自由になるはずで。
もてるものすべてを賭けた涼維は何も奪われずに済むはずで。
月が満ちたときに殺すのは違約を発生させない約束の時間だからで。
空を見上げても月が見えない。
家を抜け出し、磯を走る。
力が抜ける。
少しでも違約にならないように海に向かう。
海で失ったものは海に返す。
胸が熱く咽る。
ヒューヒューと変な音がする。
目の奥が熱い。
波が優しく触れてくる。
優しく撫でるように。
「てーて」
閃くような記憶と単語。
見えなくとも常にそこにいてくれた『てーて』。
いなくなったのは『ぱてぃ』から離れて『父さん』のところにきてから。
海で失くしたものは『血液』小さな頃の致死量も、十年近くたてば何とかならなくもないと思った。
死にはしない。
そう思っていた。
熱くて寒い。
視界が安定しない。
ぐらぐらする。
ふわりと髪を撫でられる。
----幸せにおなり----
「てーて」
遠ざかる気配を追おうにも動けない。
世界が暗くて冷たくて熱い。
「コワいのね。体が痛くてコワいのね」
こわい?
痛い?
涼維が時々泣いているアレ?
「てーてがぁ」
「ええ。逝ったわね。でもね、りゅーちゃん、あのてーてを残したかったのなら、殺すのは新月の日よ?」
「ぇ?」
「りゅーちゃんが頼んだ陰陽師のおねーさんはりゅーちゃんが望んだとおりに月の満ちつつある日に退治したのよね?」
「う そ。てーてを殺そう、なんて!!」
体中が軋む。
これが痛い?
いやだ。
てーての死を望んでなんかいない。
逝かないで。
「約束は簡単で難しいわ。そして起こったことは変わらない」
「やり直せはしないの。時間は戻らないの」
いやだ。
「てーて。ぱてぃ」
かえってきて。いかないで。ごめんなさい。
芦屋梨桜さんお借りしましたー。
隆維体調不良で10月中は学校欠席確定です。




