10/12 公務執行妨害じゃあ?
鎮の見た光景
どうしようかと思ってると見知らぬ男から声を掛けられた。
心当たりがあるのか、有坂が身を竦める。
心配する『大丈夫か』の声。
有坂から小さく呟かれる『任せる』の声。
疑問符が飛ぶ。
押し付けられるように抱きとめたミホちゃんは冷たい。だが傷が熱をもってアツイ。
「うっせーよ」
え?
何で心配してくれた人に絡むんだ?
「有坂?」
「おまわりには関係ねぇんだよ!」
ちょっ!?
横から服の端が引かれる。
視線をめぐらすと何人かが手招きしている。
指示に従ってそろりと場所を離れる。
何でおまわりさんにって、病院拒否るのと同じ理由だろうな。
「ミホちゃん、だいじょうぶか?」
いくつもじゃらりとピアスをつけたがりがりの男がこれ以上濡れないように傘をさしかけながら誘導してくる。背後にも人がいて有坂がどうなったかがわからない。
もしかしなくても後で話聞きに来られるのかなぁ。
「血のにおいが」
「早く止血してやらねぇと」
「やった奴と同じ顔だよな」
その言葉でミホちゃんを心配してざわついてた周囲が静まる。
「ず。……しずちゃ、」
「ミホちゃん」
「ぁ、き。ちあき……。サツキちゃ……」
こほこほと咳き込む。
沈黙の質が変わった気がする。
「千秋君。か」
微妙そうな、辛そうな哀れんでる表情でこっちを見てくる人たち。
「こっちよぉ。さっさといらっしゃい」
ワゴン車が留まっており、すらりとした女性が手招く。
「姐さん」
ピアス男が手招く女性に頭を下げる。
車内にミホちゃんを運び込むと運転席から運転してたであろう男がこっちに回ってくる。
「女の子だからな」
「姐さんに任せときゃいい」
「病院にあてはあるのか?」
運転手とピアス男が交互に言う。
「旧水族館そばの開業してない病院へ。それと、ありがとうございます」
「いいわよ」
ワゴンの方から先ほどの女性の声が聞こえる。
「ほら、乗んな」
ピアス男が促す。
「あの、有坂は?」
「タケなら大丈夫だろうよ。ほら、さっさと乗れよ」
移動中の車の中は無言。
距離があるわけじゃない。
マナーモードのスマホからメール着信の振動を感じる。
千秋を心配してくれているメール。
状況が微妙で返信ができない。
ミホちゃんが辛そうな息をこぼす。
どうして?
わからなくて辛い。
鍋島にゃんこが死ななきゃいけない理由も、ミホちゃんに千秋がふるった暴力も理由がわからない。
本当に、
「わっかんねーよ」
もちろん、有坂が警察の人に突っかかった真意もわからない。
猫塚千里さん、名前は出てませんがお借りしました




