10/12 流れるモノ
殺伐としております。
駆けつけて見た光景は千秋がミホを突き飛ばした瞬間。
「黙れよ。売女」
マズイ。
千秋は女だから手加減をするという意識はない。
あるのは自分にとって大事かどうかだ。ミホは大事なものに入っていない。
鎮に準備していたメールの一つを送信する。
その間にミホの態勢が変わっている。
壁にもたれかけで仰向けに近かったのが地面でくの字だ。
ミホを見下ろしていた千秋がきょろりと周囲を見回す。
「タケル『も』知らないよね」
感情のこもらない穏やかな声。
「鎮に連絡したから」
そっとミホに近付く。
千秋から目は離せない。
「そう」
ポツっとそう返し傘を傾ける。
「傘ぐらい持って出歩きなよ。風邪、ひいちゃうよ?」
何気ない千秋の言葉。
「ミホ、大丈夫?」
「蹴ったの千秋だろうが」
流石にいらっとくる。
「だって、邪魔するからさぁ」
「ミホが、悪いっていうのかよ!?」
少し、驚いた表情の後、笑う。
「決まってるだろう。そうだよ」
眼差しはどこまでも冷たい。
「悪いのはミホなんだから、仕方ないよね。なのに、どうしてタケルが怒るの?」
首を傾げてから軽く手を打つ。
「お願い聞いてくれる?」
冷たい笑い。
「内容もわからず聞けっかよ」
「大丈夫。簡単だから」
朗らかな声。
明るい調子なのに冷たい。
「……ちぁ」
ミホが千秋を呼ぶ。
肩に痛みが走る。
咄嗟に庇ったのが正解だったらしい。
「蹴ろうとすんなよ」
「だって、黙れって言ったのにさ」
困った奴。と言わんばかりの態度でしゃがんだ俺と俺が抱え込んだミホを見下ろしている千秋。
位置がヤバイ。体力と技術は勝っているっつっても態勢がキツイ。
「千秋!!」
鎮の呼び掛けにふっと視線を揺らす千秋。
「…………だいじょうぶ、だから」
スッと身を引き傘を手放す。
視界が傘で覆われる。
「千秋!!」
すぐ横で聞こえる鎮の声。
「有坂」
声は遠ざからず、横で聞こえる。
「追いかけろよ。何するかわかんねーぞあいつ」
走り去る千秋でも、鎮なら追いつけるだろう。
「ミホちゃん。病院に連れて行った方がいい。そっちが優先だ」
首を振って横にしゃがむ鎮。
「病院はダメだ」
「じゃあ、おじさん呼ぶ」
「大人なんか信用できネェ」
「有坂!」
じっと見てくる鎮。
「血が止まってない。治療をしないのは選択としてない」
血が止まってない?
なに言ってんだ?
「おい、大丈夫か?」




