10/12 雨
工場街や港の倉庫そばを廻る。
目があった男達はピタリと話をやめる。
「今、鍋島さんの話題だった?」
前に鍋島さんのことを知っていそうで、二度目以降は会話を避けた人たちの一部だ。話を振ると警戒の色が強まった。
その時と少しメンバーは違う。それでも、同じっぽい。
「あのね。教えてくれないんならしばらくね、話題にしないでほしいの」
こんなことを言ったら千秋が怒ると思う。
でも、そうしないといけない。
「それとも、教えてくれるの?」
男たちの視線がミホの背後を見ている。
メールしたし健?
「ミホ。その人達何を教えてくれるの?」
背筋が冷える。
やさしげなやわらかい声。
「いろいろだよー? ミホ。いろいろわかんないこと多いし、すぐ忘れちゃうからぁ」
振り返るのがこわい。見えないなりに腕を掴む。あんまり確認されないうちに、覚えられないうちにどっかいっちゃって。
「ミホ。お願いだから、離してくれる? ほら、聞いてみたいから」
『お願い』という言葉を使う千秋はこわい。
男たちはそろりと数を減らしている。
ただ、ちらちら様子を見てるのもいる。
はやく行っちゃってよ。
「いっちゃうじゃないか。話、聞きたいのに」
バフっと抱き着く。
困ったようなため息が落ちてくる。
「ミホ。どうして邪魔するの?」
「だって、朝から会えたんだもん。ミホ嬉しいー。メールしても返事してくれなかったのに、会いにきてくれて」
フッと何かいろいろ見えなくて感じない。
見下ろしてくる緑色の目。
「ミホ。邪魔しないでくれると嬉しいな」
千秋が笑う。
「何も調べられないんならせめて、邪魔しないでほしいんだよね」
どーしてか背中が熱い。ぶつけちゃったのかな?
雨が気持ちいい。
「ねぇ。ダメだよぉ。今はサツキちゃんのことだけ考えてあげてよぅ。すりかえちゃダメだよぉ。千秋はサツキちゃんのこと忘れちゃうのぅ?」
怒ってる。
心に留めた好きな人。
喪われて怒ってる。
思い出したら動けなくなるから、忘れている。
「ミホ」
降ってくる言葉は音だけ優しい。
「ねぇ。千秋」
手を伸ばす。
「サツキちゃんのこと……」
「黙れよ。売女」
しばらくサツキさんネタ使わせていただきます。




