9/13 金曜 雨
窓の外は雨。
学校の廊下を歩いているとぼやいている男の子の声が聞こえた。
「あー。めんどくせぇ」
ふわりとした明るい茶髪。あれは日生双子の下の片割れ。どっちかまではわからない。
視線が合う。
わかった。
「千鶴じゃん」
日生隆維の方だ。
「先輩、付けなさいよ」
「やだ」
軽い調子で拒否して寄ってくる。
「千秋兄、そっちいってね?」
「千秋さん? にいさんも最近帰ってこないからわからない、な」
まともに高校いって普通にしてるにいさんの友達って千秋さんくらいだけど。
「ふぅーん」
疑うような、興味なさそうな反応に苛立つ。
「とにかく、声かけてこないでよね」
「なんで?」
わからなさげに首を傾げる姿が悩みなさげでイラつく。
「親しいなんて勘違いされたら嫌だからに決まってるじゃない」
「じゃあ、騒がない方がいいんじゃね? 声、荒げてるの千鶴の方だぜ?」
ああ言えばこう言う!
「受験勉強で苛立ってる?」
「あたし、高校行かないから」
あまり話題にしたくは無いけど。
隆維は不思議そうに首を傾げる。ちょっと人目を避けて移動しながら。
「高校はいっといた方がいいって放任主義なウチの父さんでも言うぜ?」
「関係ないじゃない。にいさんもいってないし、母さんは入ったけど、あわなくて中退したって言ってるし、ミホさんだって、二ヶ月通わず中退したし。学歴なんか無くったって生きていけるんだしね」
連ねてると、隆維が微苦笑する。ムカつく。
「じゃあ、専門学校とか?」
「お金に困ってないお坊ちゃんは言うことが違うわよね。母さんのお店手伝うのよ。今でも雑用ぐらい手伝ってるし」
「就職にしても学校からの紹介とかあるんじゃあ?」
「興味ないわ」
ってどうしてそんな心配をされなきゃいけないのよ。
いやになる。
むかつく。
こういう距離感、大っ嫌い。
お金なんか無いし、学力だってそんなに無いし。
得意なことも、したいことも無い。
「千秋さんに会うことがあったら隆維が気にしてるって伝えといてあげるから、もうほっといてよ」
じっとまっすぐ見てくるのがイヤ。
「んー。あ。やばっ」
そそっと壁の陰に隠れる隆維。
そこに通りかかったのはキョロキョロ周囲を見回す体育の木下先生。
はっきり言って苦手だ。
「ああ、有坂か。進路に、」
「母も納得してますし、意志は変わりませんので他の人のために時間を使ってください」
しかしとごもる木下先生。
母の店は居酒屋というか、そういう店だ。
「誰かお探しでは?」
はたりと頷く木下先生。暑苦しい。
「日生の片割れを見かけなかったか?」
そっとそちらに視線を転じると、隆維はすでに逃亡した後だった。
木下真弓先生お借りしております。




