夏の宿題追い込み中。
今、おれは宿題を半分、写させてもらっている。
ここ最近、急接近した相手だ。
あんまり接近したことは周囲にばれてない。
両親から『すぐる、いいお友達が増えてよかったね』などと言われるたびに否定したくてたまらない。
百万歩譲って友達はかまわない。
だが、一億歩譲っても『いいお友達』とは言いたくない。
まぁ『イイ』友達かもしれないがかなり含みのある『イイ』友達だ。
「一人暮らしはどう?」
「うーん。何とかやってる感じ。まだ片付け終わってないし」
いい友達じゃなくても世間話くらいはする。
「手伝いに来る?」
「いかねぇ」
とりあえず提案は断っておく。
「友達がいがないなぁ」
などと苦笑しているがお前が言うなって心境だ。
六月にこいつは転入して来た。
中途半端な時期にと思った。
周囲への扱いはどこか気もそぞろ気味。
好きでうろなに来たわけじゃないのかと思ったのでおれは基本放置。
まぁ、それぞれに友人関係が落ち着いてきたところであらためて和を乱したくない事なかれなところもあった。
とにかく、七月に鎮先輩が脅してきたあの日までは実に大人しかったんだ。
イベントに拘りがあるらしく、結構商店街で話を聞いたり、商品の説明を受けたり、活動していた。
その時点で引っ張り回されてるのは、鎮先輩。
置き去りにされかけては、慌てて追いかけている先輩の姿は結構商店街の和みになってたらしい。
年配の商店主に対する愛想の良さは学校内とは大違いだから、やり方を知っていたのは山辺でも鎮先輩がいたから商店街でもうまく話が通りやすいところはあったと思う。
あそこの兄弟、夏の活動力ハンパない。水着コン盛り上げるためのナンパ祭り。
今年はなんか、カラスマントとかコスプレ司会やってたし。
ハーフなせいか、絶対羞恥心のポイントが日本人と違うんだと思う。
ああ。田中先生のポロリはもう少し隠さないで欲しかったなぁ。
「早川くん?」
あ。ここに性悪黒猫が。
「え?」
「さっきから手の動きが止まってる」
ニコリと笑いかけてくる。
こぇえ
「山辺くん、すぐる、夜食食べる〜?」
母さんの声に救いを感じる。
最近反抗的でごめんなさい。進んで手伝いもしたいかなと思います。
「あ。食べる〜。おりよーぜ。山辺」
「そうだね。ご相伴させてもらいます。早川くんのお母さんは料理上手でいいよね」
もう一回にっこり。
「ありがとう。すぐるはいっつも文句ばっかりだけどねー」
「か、母さん!」
「あらぁ。キノコは入れてくれるな。ピーマンは細かく、辛過ぎ、甘過ぎ、少ないに多い。ほんとにもう」
ほんとーに仕方なさそうに言う母さん。
え。
そこまで文句言ってたっけ?
「注文が多いんだね。早川くんは」
「そーなのよねー。山辺くんは苦手なものがあったら教えてねー」
「特に食べられないものはありませんよ」
「あら。いいわね。すぐるも見習わなきゃ」
ぁーーーーーー。
もう!! 絶対家事なんか手伝ってやらねぇ。
ほんとに外面いいよな。
靴屋の靴買ってくれるお得意様になってるし、母さんに対してもこの対応でうけがいい。
職人の親父にもこだわりのぶつけ合いをしてからうけがいい。
ウチの両親は奴の味方だ!!
こんど、菊花ちゃんに相談してやるーー。
「でも、早川くんは料理部で料理の練習してるんだから、おばさんを唸らせる料理を作るんだよね?」
え?
ナニその撃沈フラグ。おれ、まだゆでたまご作ると白身に脱走されるんですけど?
もやしのひげ摘みで折っちゃうんですけど?
「あ~ら。楽しみねー」
そう言って母さんが出してくれる夜食は梅ジャコ豆腐のお茶漬け。
うん。夜食って感じ。
かあさんのきたいしてない感に救われるよ。
「デザートにアイスシューがあるわよー」
おおアイス。
「お茶は何がいいかしらねー。ミルクティーか、ティーソーダ……。ティーソーダにしましょうね」
「いいお母さんだね」
「まぁな。ふつーだと思うけどな。あー離れて過ごしてると恋しいとか?」
小さく笑われる。
「もう慣れたよ。あ」
「なに?」
梅を潰しながら顔を上げる。
「確かにこんな長い間、兄さんと離れてるのは初めてだ。意外と慣れちゃうもんだねぇ」
ああ、こうしてると普通の奴だなぁとか思わなくもないが、もちろん。
だまされないからなっ!!




