8/26 夜の一幕「じゃま」
「うー」
明日の料理の試作をしてたらいつの間にか、鎮がだれてた。
「何唸ってんの?」
「食欲ない」
パタリと突っ伏して右手だけがひらひらと動く。というか、答えになってない。
そう言えば、
「海ねぇの賄いもパスってたっけ?」
「んー。だって欲しくなかったしーちょい頭痛してる気がしたしー」
実にかったるそうな返事がかえる。
ぱたんと右手がテーブルに落ちる。
左手は額ふきんで下敷きになっているようだ。
「っていうか、テーブルに突っ伏すなよ。邪魔だよじゃーま」
「やっ! あけてやんねぇ!」
こいつ本当にこっち見ずにもの言うよなっ。
少しムカつく。
「こどもかよ。ほら邪魔ジャマ。明日の仕込みの一環なんだから」
明日は料理部のお疲れ様会だ。出来るだけ準備しておきたい。
それなのに突き放したら、唸られる。
「うー」
「鎮?」
「千秋は俺のことなんか嫌いなんだな?」
唐突に言われた。
不満げに唸ってたから唐突でもないのか?
「いや、待って。展開についていけないから。って、嫌って欲しいの? 嫌う要素は結構多いよ?」
うん、結構マジでさー。
最近の自分の態度振り返りやがれとか思う。
「千秋の……千秋のーおたんこなすー」
がくんと力が抜ける。
おたんこなすってなんだよ。
どんだけ発想力低下中だよ。
隼子さんとトラブったのか?
それとも、
「えーっと熱でもあるの?」
まさかね。
「そんなわけないだろー」
否定して右手をまた力なく振る。
宥めつつ、動く手を捕獲する。
「はいはい。手間かけさせない。って。熱いじゃん。部屋で寝てろよ。風邪薬持って行ってやるから」
まじ熱出してたよ。
ゲリラ豪雨にぶち当たったって言ってたっけ?
「やっ! 今日は千秋といてやるの」
なぜ恩着せがましい。
「頼んでねーよ」
「やっぱり千秋、俺のこと嫌いなんだー」
「……めんどくさい」
発熱した鎮は邪魔臭かった。
「はいはい」
「適当になだめようとしてんだろー」
「うん」
熱があるくせにその辺は気がつくのか。
「ひでぇーーー。千秋ぃ」
「んー?」
仕込みは無理っぽいな。
「俺さー」
「んー?」
適当に返す。
「そういっちゃんとの距離、どうしたもんだろー?」
真面目ネタ?
「先輩と後輩の位置はキープだろ?」
お友達位置は取れてないけど。
「うぅん。ちょっと違うんだよなー。俺的にはぁー、見放せない感じなんだけどさー、理想は友達位置なわけよ? わかる?」
鎮、何で上から目線? 基本、お前が相手してもらってるよな?
「違うんだよなー。俺とそういっちゃんが望む立ち位置がさー。それを踏まえて俺が調整できるとこはするべきー?」
うだうだ考えをまとめようとしている鎮。
発熱中なんだから考えるだけ無駄じゃねぇ?
「はいはい。お疲れ様でした。あー、でも今年はさー、本当頑張ったよね。水着コンもビーチでのカラスマントもさ」
ちょっと笑いが洩れる。
宗一郎君に振り回された水着コン。
ビーチでのカラスマント営業。
俺の方だってウチでの料理部の部活やら人の恋愛やらサツキさんへの想いが募ったりで色々だ。
「うん。なかなか例年より充実してたと思うなぁ。へばるよなー」
「そうだなー。おつかれさま。今年の夏もがんばりました」
「おぅ。いろいろトラぶったけど、楽しかったかな? 知らなかった親類が増えたりってふつーないよなー」
ちょっと笑う。
実父サイドの兄弟発覚におじさんトコのミラちゃん。
「隆維のトラウマ発覚とか、鎮の家出とか面倒くさかったー」
「面倒くさいとかってひでー。まぁ、そっちの生活もいい経験だったかなー」
ぱたりと手が動く。
「千秋」
「んー」
フルーツジュースとアイスでも食わせておくかなー?
「ありがとなー。……めんどうかけてゴメンな」
なんか、視線を合わせにくいって言う鎮の心境がわかったかもしれない。
気まずくて気恥ずかしい。
「どーいたしまして。迷惑だったけど、がんばってたのも知ってる。だからさ」
ひとつ息を吐く。
鎮の反応は熱のせいで薄い。
きょろりと周囲を見回す。チビどもは病院か。
「部屋で寝よう。鎮にいさん」
名前だけですが、小藍様の海ねぇ、寺町 朱穂様のサツキさん出てます。
そしてバザー話に戻る予定。(ぁ




