8/19 昼過ぎの中学校。
「鎮、ついて来てくれるのは嬉しいけど、結局のところ私達にも状況はわかりかねてるんだし、とりあえず、報告とお願いだけでいいかと思ってるの。兄さんがむこうでいくらか話を聞いてくるでしょうし」
「そう?」
歩きながらの会話。
「ええ。隆維はそのことに関して罪悪感は持ってないでしょう?」
「たしかに?」
「注意されても、正しく理解できないと思うの。どんなに危険な状況を放置していたとしても、あの子は『死ぬつもり』はないのだから問題ないと解釈してるの。周りが心配したり危惧したりする理由がわからないの。わからないことを追求されても困るでしょう?」
「えーっと何気に俺へのコメント込みですか?」
「もちろん」
「ごめんなさい。さーやママ、確かに困ると思います。俺は間違いなく答えが出せずに困ります」
まだ悩んでるのか。
「いいのよ? 悩むことは必要だもの」
申し訳なさそうに黙り込む甥っ子。
さっさと家出やめるか自立しろ。
「力になってあげられなくてごめんね。高校卒業後の進路、せめて考えておきなさいね」
こんな会話をしつつ、うろな高校を通りすがりに眺め、義姉の勤める病院。そして目的の中学校へ。
「進路ぉ~」
ほとんど呻きのような声が漏れる。
先は見えてないらしい。
「新聞屋さんに勤めでもするの?」
「うーん。最終手段としては悪くないかなーとは思うけど、まともにやると時間がなさそうなんだよなー」
「時間?」
「朝刊夕刊は基本だろー。昼間に届いたチラシの組上げ、不配遅配の対応。振込みとかも多いとはいえ、月末月初の集金。で、時折来る販促期。月に2回あるかないかの朝刊休刊日。唐突に体調不良者が出たときの代配。生活時間も慣れるまでが大変だしさー。雨も嵐も地震も関係無しだしー」
空を仰いで、指折り数えてゆく。
「なんだか、誰かにダメだしされた?」
ものすごく具体的だ。
「んー。外泊先のヒモにちょっと。まずは本当にやりたいことを考えてみろって」
わかんないって言う口調で甥っ子がぼやく。
「ヒモのいるおうちにお世話になってるの?」
「うん。ちょっと新鮮」
「で、ここがわが母校うろな中学ー」
「しつれいしまーす」
「お。来たな」
あら、かわいらしいちっこい先生。
「失礼します。日生沙夜香といいます。隆維の叔母です。兄が来るべきだったんですが、外出中で代理で参りました」
ちゃんとしないとね。
その横でやほーとのんきな挨拶をした甥っ子はもちろん沈めた。
挨拶くらいちゃんとしなさい。
「梅原司です。今朝、鎮から何か問題があると聞きましたが」
「はい。隆維のことで。まだ原因やどれほどの症状なのか詳細がわかっているわけではないんですけれど」
「症状?」
「海に落ちて意識失った。……マジびびったし、こわかった」
鎮。
ため息がこぼれる。
連れてこないほうがよかったのかしら?
「プールとかは大丈夫らしいんですけど、涼維の方を追求していくと昔はだめだったらしいんです」
「え?」
「ねぇ、鎮。出ていてくれるかしら?」
傷ついた表情してもコレはだめ。
話し合いの邪魔になるのはダメ。
「心配なのはわかるけど。ごめんなさい。お願いよ」
「……はい」
梅原先生お借りしました。




