8/16 笑顔が
ざぁざぁざぁざあ
ざぁざぁ
水音がする。
いつの記憶かなんて覚えていない。
優しく
甘く
蕩けるような極上の笑み。
ざぁざぁ
ざぁざぁ
水音がうるさくて何も聞こえない
□□の声は聞こえない。
ねぇ
□□が僕らをいらないっていうのなら
僕らも□□なんかいらないでいいよね?
「知ってて、どうして黙ってたんだよ!」
どこか荒い勢いのある鎮兄の声。
「だって」
心細げな涼維の声。
「あんな状況に突き当たって生きた心地しなかったんだぞ!」
鎮兄。
あんまり荒く怒鳴ると涼維が怯える。
「隆維。おきた? 大丈夫?」
覗き込んでくる涼維の目。
純粋に心配の色だけ。
「へーき。んー、兄さん達仲直りしたの?」
なんで殴るの?!
しかも二人共ってヒドイ。
「ああなること知ってたのか?」
えーっと
仲直りじゃなくて多分、海の話題?
「一応?」
プールとかは平気だし。
海に入らなきゃ大丈夫だし。
「なんで黙ってたんだ!?」
グリグリと拳で頭を撫でられると痛いんだけどな。
鎮兄、乱暴。
言うような内容かなぁと思うんだけどな。
「聞かれなかったから」
あー。そうだ。
「小林先生には前に『水がこわいの?』って聞かれたことがあるけど、水はこわくないしねー。ね」
涼維が頷く。
うん。間違ってない。
「海もこわくないんでしょ」
鎮兄のデート相手がにこにこと言ってくる。
「海は好き、かな?」
ぎゅうっと強く涼維がしがみついてくる。
何でこの人いるんだろう?
「水ん中で、海の中で意識を失ったら死んじゃうだろうが……」
「だいたい涼維と居るし。今回だってすぐそばに鎮兄もいたし、公と一緒の移動だったし」
あー。その公におとされたんだっけ?
目の前にコップが置かれる。
千秋兄がにこりと笑う。
「状況はなんとなくわかった。今後考えていくべきは対策だね」
穏やかな口調。
鳥肌が立ちそうな空気の波を感じる。
まずい気がする。
「対策?」
待て涼維。不用意な発言は控えろ。
「そう。対策」
疲れたようなため息。
「コレまでなんて済んだ事はどーでもいいんだよ。うん。僕はね、今後の対策を考えていくべきだと思うんだ。メンタルヒッキーなどあほうもコミュ力に問題があるどあほうも、ぱーぺき依存症いき過ぎなどあほうにも対応できる対策を考えないとダメだろう?」
「涼維とは共依存だよ? 平和的に」
「世間サマ的には問題大有りなんだよどあほう!!」
うーん。
自分だけまともなつもりだとしたらさすがに悔しいかもー。
「世間様は世間様だろう?」
うわ。鎮兄。俺でも躊躇した台詞を。
「だって。僕に迷惑」
千秋兄、一番、自己中?
「そこ? そこなのか?!」
「当たり前だろ?! 現状を見ろ! 母さんとのいざこざなのにはたからは僕とのいざこざと思わせて家出。ああ。もうちょっと前までさかのぼれば四年前からだっけ?」
もうちょっと?
四年って、ちょっと?
鎮兄が黙り込む。反論が回ってないんだろうな。
重々しくため息をこぼす千秋兄。あ。ジュース美味しい。
「まぁソレは改めて追求するとして今は」
改めてなんだ。
「隆維の問題の対策かな」
え。俺に戻ってくるの?
「あー。とりあえずおじさんと……」
鎮兄が俺らの方を見ながらひとつ頷く。
「さーやおばさんに報告は必須。ルシエおばさんは忙しいだろうからこの際ハブ。あと、学校への報告と、原因がわかってるんならソレに対してどう対応するかと、うーん。カウンセリング治療?」
「いやだから。カウンセリングなんかしないから」
父さんや学校に報告とかは別にどーでもいいけど、カウンセリングとか嫌。
「ソレはおじさんしだい。まぁだいたいそんなトコかな。とりあえずその症状に関しては周囲にオープンかな」
え?
千秋兄。
なんで?
いや、鎮兄も黙って頷いてるし。
「なんで?」
「なんで? どうしてその言葉が出るの? 隆維。僕は隆維に生きてて欲しいからね。必要な保険と対策をかけておかないとね」
千秋兄が迷いのない表情で笑う。
真剣に怒ってるっぽい。
小林先生チラとお名前使っております




