8/13 早朝バイト
目を閉じて音を聞く。
階下から生活音が聞こえる。
桐子さんが階下で料理中なんだろう。
「起きてるかー? 今日も付き合えるかー?」
潤さんの声。
夏のバイト、初日で逃げたり、3日で逃げたり、いきなり人が休んだりで人手不足らしく、配達員不足らしい。
逃げる率そんなに高いの?
潤さんは「手伝うのは朝だけでいい」というが、店のおっちゃんには「夕刊も来ないか」と聞かれる。
それを容赦なく切り捨てる潤さん。
なぜかを聞くと「俺、朝刊しか配ってないからさ。シズが夕刊もやっちゃったらやれって言われるじゃん」と返ってきた。
ダメな大人かよ!
「今、下ります」
◇
「おはよう。鎮君」
「っはよー。体調崩した奴がまだ復帰できないらしいわー」
「おはようございます」
桐子さんがジュースと菓子パンの皿を勧めてくれる。
「潤さん、新しい人入ったっておっちゃん言ってませんでした?」
疑問を提示すると飲んでいたコーヒーを中断し、ばたばた手を振る。
「ちゃんと来るかどーかも続くかもわかんねーし当初は慣れたやつについて道を覚えるのがメインになるからなー」
「つまり、初日から台帳ひとつで配りに行けは普通じゃない。と」
潤さんは笑いながらコーヒーを飲む。
「ちゃんと説明もしたし最初の二日は時間制限あるトコは配ってやったじゃん」
恩着せがましい。
パンをむぐむぐ食べながら軽く睨む。
道理で新聞屋のおっちゃんが微妙な顔をしていたわけだ。
「見習わないようにね」
桐子さんが笑いながら言う。
◇
外はまだ暗い。
店に着いたら渡された台帳をめくる。
潤さんはチラシの準備。
台帳には顧客名が書いてあり、その横に暗号がいろいろ書き込まれている。
「ト」「ナム」とか、チラシ抜きとかスポーツ新聞を示す短縮語。何時までとかの時間指定。
ポストに落とし込め指示に窓に差し込め指示、ポストに落とし込むな指示もある。
めんどくせぇ。
「あれ?」
顧客名と暗号からコース確認してると配達停止の書き込みがあった。
清水先生、帰省かな?
それとも同姓の人か?
正式な配達員でもない俺はチラシの準備等は免除されてる。
チラシの準備は基本前日の昼間にしてるらしいし。
待っているとトラックが新聞を運んでくる。
荷台に配達員とトラックの運ちゃんがまわって、ビニール袋に包まれた新聞をぽんぽん投げ落とし始める。
他の配達員がわらわらと下に落ちる前に受け止め、バケツリレーならぬ新聞リレーが始まる。
それを横目で見ながら壁に張られてる地図を確認する。
鎌を持って待ち構えているおっちゃんとかってちょい怖い。
「シズー。準備オッケー。行ってこーい」
潤さんが軽い感じで準備万端新聞をつんだチャリを示す。
「いってきまーす」




