夢の記憶。
いやだ。
こわい。
伸びてくる手がこわい。
こないで。
あの日見てた――夢――は森の夢。
森を突っ切る道路。
ガソリンの匂い。千切れた葉のにおい。男の汗のにおい。そして甘く鉄くさい匂い。
汚れた手が顔を上げさせる。
暗い赤毛が視界の端でちらちらしている。
友達のお父さんが運転していた車は横転している。
友達はうまく逃げれたんだろうか?
正面に見えたのは暗い緑の目。
何か言ってるけど理解できない。
促された先には友達のお父さん。
かちり
金属が打ち合う音が聞こえた。
次に来た衝撃音に目を開けていられない。
鉄くさい匂いが濃くなる。
開けた目の前にあるのは暗い緑の目。
伸びてくる手。
こわい。
手が止まる。
いやだ。こわい。
「かあさん?」
「いや! ちかよらないで!」
投げたのは側にあったガラスコップ。
ガラスの割れる音で我に返る。
「動かないでねー。ガラスかたづけちゃうからさー」
何事もなかったかのような声と言葉。
私は誰に何を言った?
「ソファーで寝るとカゼ、ひいちゃうよー。エアコンきいてるんだしさー」
手に当たる布はブランケット。
「よし。拾い終わり。大丈夫だと思うけどしばらく裸足で歩くとかはやめといたほうがいいかもー。じゃあ、ガラス捨てとくから」
とめなきゃいけない。
謝らなきゃいけない。
恐怖心が勝って、呼び止めれない。
わかってるの。
「鎮は悪くないの。でも。あの子を見てるとこわくてすくむの。動けなくなるの。どおしたらいいの? 太陽ちゃん」
太陽ちゃんの腕の中は暖かい。
だから泣けるんだと思う。
信弘君が伸ばしてくれた手ですらこわかった。
それが悲しい。
背中を撫でられる。
涙が止まらなくて困る。
泣くのは嫌い。
泣いても何も変わらないから。
「太陽ちゃん、ごめん……ね」
太陽ちゃんの黒い瞳が細められる。
「みっともないよね」
「こわいことがあった?」
頷く。
「終わってから泣いた?」
首を横に振る。
だってみっともないし。ちゃんとしておかないとダメだったから。
「ばかねぇ」
太陽ちゃんの言葉は優しくて。
そのまま抱きしめなおされて、また涙が止まらなくなった。
日付が変わった頃 (ごめんなさい)、海ちゃんが甘いお菓子と封筒を渡してくれた。
封筒にはあの頃の信弘君の字。
『がんばりすぎずに助けてもらえ』
子供っぽい猫のピンバッチ。
裏にマジックで『8/12』
「太陽ちゃん、信弘君馬鹿だ。なんで、18年前の宛先不明で返ってきた手紙をとっとくのよ」
「そうね」
そう言う太陽ちゃんと、信弘君がいたから涙が止まらなかった。
私はそのとき、千秋がいたことを知らなかった。
ARIKAにて騒動で申し訳ないですー
騒動引き起こしてばっかですね☆




