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堅物不器用な騎士様に告白されたら城が半壊しました~物理的に危険すぎる契約婚約生活はじめます~  作者: 甘酒ぬぬ
第2章

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2-6 回りくどい男


「まったく、これが武門の名家グラスベルク流の挨拶かい? 荒っぽいにもほどがあるね」


 マリエルたちが一階に着くと、若い男性の声が聞こえてきた。


(もう起きてる? なんだか機嫌が悪そう……)


 マリエルは胸の前で小さく息を整え、扉の取っ手に指をかける。


 客間のベッドには、頭に包帯を巻いた青年が腰をかけていた。白金の髪を鬱陶しそうに掻き上げ、細めの眉を吊り上げている。


(……うそ)


 マリエルの声は音にならなかった。


 杭が刺さったかのように心臓が痛む。

 マリエルの記憶の中の姿よりも大人びているが、彼を見間違えるはずがない。


「セヴ……セヴラン?」


 おずおずと名前を呼ぶと、青年――セヴランは勢い良く立ち上がった。


「マリィ!」


 他の誰にも目をくれず、一直線にマリエルの元に向かう。


「本当に、セヴなの?」

「まさかこんな形で君と再会するとはね、マリィ」


 セヴランは問いかけに答える代わりに、まぶしそうに目を細めた。マリエルの身体に腕をまわす――よりも先に、マリエルの身体が後ろに引っ張られる。


「え?」


 呆気に取られていると、目の前でぽんっ! と青い花が破裂した。花びらがはらはらと舞う。


「カインハルト、様?」


 マリエルは首を巡らせ、自分の腕をつかんでいるカインハルトを見上げた。


「っ……勝手に触れて、すまない」


 カインハルトは弾かれたように手を離し、顔を逸らす。


「いきなりなご挨拶ですね、カインハルト卿」


 セヴランはマリエルをやんわりと押しのけ、カインハルトに詰め寄った。


「屋敷に着いて早々、どこからか飛んできた軍学書が頭にぶつかるわ、威嚇爆破を受けるわ……あなたとは初対面だと思いますが、僕に何か恨みでも?」


 体格差をものともせず、セヴランは強気に指を突きつける。


「……暴発だった。申し訳ない。だが、不用意に他人の婚約者に触れないでくれ」


 カインハルトは毅然とした態度で応じた。


「なるほど。制御は『しているつもり』というわけですね」


 セヴランは指ではさんだ青い花びらカインハルトに見せつける。


「?」

「やれやれ、皮肉の通じない方ですか」

「皮肉……?」


 要領を得ないカインハルトはわずかに頭を傾けた。


「ごめんなさい。セヴは昔からお話がちょっと回りくどくて」


 見かねたマリエルはカインハルトの袖を引っ張り、耳打ちをする。


「マリィ!」


 セヴランの厳しい声が飛んできた。


「だって本当のことでしょう」


 マリエルは腰に手を当てて言い返す。


 出会った当初こそセヴランのことは怖かった。

 彼の性格を知った今では、きちんと言い返した方が良い事を知っている。


「『金髪男の話は回りくどい』……と」


 カインハルトは律儀に言われたことを書きとめた。


「カインハルト様っ、復唱しないでください!」

「マリィ、なんなんだこの失礼な男は!」


 マリエルを叱責した直後、セヴランの身体がぐらりと傾いた。床に膝をつき、包帯の巻かれた額を押さえる。


「セヴ!? とりあえず治すから横になって。怪我で意識を失ってたのよね?」


 カインハルトに手伝ってもらい、セヴランの身体をベッドに横たえた。


「あぁ……馬車から降りた途端、どこからか本やらランプやら花やらが飛んできてこの有様さ」


(ちょうど爆発が起きた時に着いちゃったんだ……)


 気まずさを顔に出さないように気を付け、包帯を外す。

 セヴランの額には立派なたんこぶが出来ていた。本が当たった時に皮膚が切れたのか、うっすらと血が滲んでいる。


 マリエルは深く息を吐き、手を患部にかざした。するとすぐに温かな治癒光が灯る。


「……初対面かつ、名乗りもせずに悪かった」


 セヴランはカインハルトをちらりと見、ばつが悪そうな顔をした。


「今回、『恋衝対策管理官』として派遣された宮廷魔術士のセヴラン・カルナードだ」

「すでに存じているようだが、改めてこちらも名乗らせてもらう。第二騎士団遊撃隊隊長、カインハルト・グラスベルクだ」


 カインハルトは騎士団流の敬礼をし、セヴランに向かって手を差し出した。


「あんたは色々と有名だからね」


 セヴランはカインハルトの手を一瞥(いちべつ)だけし、上体を起こす。


「それと……遅かれ早かれ知ることになるだろうから、先に言っておく」


 傷の癒えた額に触り、セヴランは小さく息を吐いた。


「僕と彼女は、四年前まで婚約関係にあった。だからといって、どうというわけでもないけれどね」


 カインハルトは一瞬言葉に詰まった後、瞳をマリエルに向ける。

 いつもより瞬きが多いせいか、カインハルトの銀の瞳は揺らいで見えた。

 瞳の奥にどんな感情があるのか、マリエルには読み取れない。


(事実を言われただけなんだけど……)


 細く冷たい針を(うず)められたように感じ、マリエルはうつむかずにはいられなかった。

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