表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堅物不器用な騎士様に告白されたら城が半壊しました~物理的に危険すぎる契約婚約生活はじめます~  作者: 甘酒ぬぬ
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

2-2 予想外の歓迎


(これからどうしよう……)


 揺れのほとんどない馬車の中、マリエルは膝の上の(かばん)に額を押し付けた。


 鞄の中身はなけなしの着替えと生活用品。

 必要最低限の物だけ持たされ、なかば強引に宮廷術士寮から追い出された。


 行き先はカインハルト・グランベルクの屋敷。

 恋衝対策の一環として、今日から彼の元で暮らさなければならない。


(私、本当に結婚するの? それで恋衝が治まる? いきなり押しかけるとか迷惑じゃない? なにより、あの方とどうやって接したらいいの……)


 際限なく悩みが湧きあがり、心の底にどんよりと溜まっていく。

 そんな胸中に呼応するかのように、はらはらと白い花びらが降ってきた。


「……もうっ!」


 マリエルは顔をしかめ、宙に舞う花びらをつかむ。

 爆発よりは遥かにましだが、これではうっかり考え事もできない。下手をすればちょっとした騒ぎになる。


(ここ何年も暴発なんてしなかったのに。急にあんなこと言われたから……)


 表彰式での爆発告白を思い出しそうになり、マリエルは頬をぴしゃりと叩いた。

 花びらが座席に積もっている。


「……もうやだ」


 マリエルが唇をとがらせて花びらをかき集めていると、馬車の速度が緩やかになった。蹄の音が止まり、御者の声がかかる。


「グラスベルク邸に到着いたしました」


 ドアが開かれ、マリエルは小さく息を呑む。


 目の前に広がるのは、思っていたよりも無骨な屋敷だった。


 貴族邸宅というより、もはや砦だ。石造りの外壁は装飾がいっさいない。

 玄関脇の低木が唯一の彩りで、釣鐘状の白い花がひっそりと咲いている。


 マリエルが恐る恐る真鍮(しんちゅう)製のドアノッカーに手を伸ばすと、指先が触れる前に玄関扉が開いた。思わず鞄を取り落とす。


「ようこそお越しくださいました!」


 満面の笑みでマリエルを出迎えたのは、短髪の少年だった。明るく軽やかな声が玄関ホールに響き渡る。


「わ、ちっちゃ! かわいー! あー、でも意外かも。てっきり美人系が来るのかと……カイン様ってそういう趣味だったんすかねー?」


 短髪の少年は物珍しそうにマリエルを眺め、手を動かして自分と身長を比べた。


(そ、そういう趣味?)


 意味を測りかねて固まるマリエルの前に、


「誤解を招くような言い方するな、ラマ」


 顎髭をたくわえた壮年の男性がやってきた。

 呆れたようなため息をつき、短髪の少年――ラマの頭を軽くはたく。


(しつけ)がなってなくて悪いね。まずは中へどうぞ、白花(しろはな)の君」


 壮年の男性はマリエルのカバンを拾い、芝居がかった仕草で家の中に誘う。

 髪色こそ違うが、目元などカインハルトと雰囲気が似ている。


「白花……?」

「いささか安直な呼び名でしたか? 貴女がいる所には白い花が舞う、と伺っていたので」


 壮年の男性はマリエルの髪についていた白い花びらを取り、柔らかく微笑んでみせた。


(なんか、女の人に慣れてそう……)


 軽薄な気配を感じ取り、マリエルは半歩後退る。


「フリント様、軽口はお控えください。あなた様流の挨拶だと重々承知しておりますが、相手は未来の奥方様です」


 今度は白髪の老婦人が現れた。

 穏やかな口調とは裏腹に、壮年の男性――フリントの耳を容赦なく引っ張って下がらせる。


「重ね重ね申し訳ありません、マリエルお嬢様。気の利かない男たちばかりで」


 老婦人は優雅な所作で頭を垂れた。


「わたくしは家政婦のシャーリーと申します。なんでも気兼ねなくお申し付けくださいませ」

「は、はい」


 マリエルも慌てて会釈(えしゃく)を返す。


「あの、突然押しかける形になってすみません。それに、結婚するかどうかはまだ――」

「すでに旦那様が何か不手際を?」


 シャーリーの目が鋭く吊り上がった。


「いえ! そういうわけでは……!」


 マリエルは焦って両手を振る。

 こんなにも歓迎されるとは思ってもみなかった。家中の人々に過度な期待をさせては申し訳ない。


 妄想で先走るシャーリーに困っていると、奥の方から(きし)んだ音が聞こえた。ゆっくりと扉が開くのが見える。


「――来たのか」


 冷ややかな低音に、マリエルの胸がどきりと痛む。


 シャーリーたち三人はすぐさま礼の形を取った。


 カインハルトが扉から一歩踏み出すと、彼専用の絨毯のように青い花が咲き乱れる。


「カインハルト様……」


 幻想的な光景とカインハルトの整った容貌とが相まって、違う世界の住人であることを感じずにはいられなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ