2話 説明しよう 上
「ま、そういうことでね。違法性はないよ。怒られるかもしれないが」
学長には連絡しておいたが、他の細々とした連絡はしていない。今持っている研究は終わらせてから来たし、溜まっていた論文も書き上げてきた。
何より学長以外に話すと泣きながら「いかないで!」と止められてしまうからね。仕方がない。
「そんなわけで、この配信は空間魔法で座標と座標をつなぎ合わせて、物理的に有線接続をして行っているわけだ。──さて、そんな護衛たちを振り払ってでも行おうとしている検証...それは何だと思う?せっかく大勢の方が見ているんだ。クイズ形式にしようじゃないか」
またもやコメントの流れる速度が急激に上がる。残念ながら老眼に片足を突っ込んでいるため、正直目がコメントに追いつかない。
仕方がないので検索機能を使うことにする。さて、正解を当てた人はいるだろうか。
「う~ん、残念。正解者はいなさそうだ。それじゃ、正解は──その前に、ダンジョンについて説明しておこう。もしかしたら知らずに見ている人がいるかもしれないし」
『ずこーっ!』
『もったいぶるんかい!』
『今時ダンジョン知らない人いる?』
『入ったことはなくても、今や義務教育に組み込まれてるんだしな』
「まあまあ、先生というのは余談を挟むものだろう?おとなしく聞いてくれたまえ」
少々冗長的過ぎて同接人数は減っちゃうかな?と思っていたが、むしろ勢いは衰えず増えていた。
まあそうか。業界じゃそこそこ有名だし、TV露出だって多くしている。そんな人物がダンジョンでの世界初生配信をしているんだ。人が増えないわけない。
閑話休題。
それでは、ダンジョンについて説明するとしよう。
時は2050年まで遡る。神、怪異、魔法。それらすべてか科学によって解明された時代。
しかしそんなある日のこと、世界中にて大きな『変異』が起こった。
未知の素材でできた建造物が世界各地に出現したのだ。なんとそれだけに留まらず、中には神話や伝説上の怪物達が生息していたのだ。
ゴブリンに始まり、スライムやコボルトなど。現在ではユニコーンやドラゴンなども発見されている。
そういったことから、変化、適応を余儀なくされる人々、そして社会。
突如として現れた建造物に対し、世界はまず手を取り合うことを選んだ。こんな状況で争っている場合ではないと、国連の常任理事国を中心に団結したのだ。
当然反発する国も多くあったが、最終的には日本を中心としたダンジョン条約が結ばれることとなった。
なぜ日本が中心となったのか?
現時点で発表されている公式回答は、「ダンジョンというフィクションとしか言えない存在に、一番ノウハウがありそうだから」というものであった。
当然日本の政治家からすればたまったものではなかった。しかし受理してしまった以上やるしかない。
まず世界中に向けて、探索者協会というものを立ち上げた。ダンジョンに力を持たない一般人が入ることを制限するためだ。
ダンジョンに立ち向かうにしても、戦えない一般人が侵入して死んでは意味がない。
では、ここでいう力とは何か。それは"スキル"だ。
ダンジョンが世界に現れて以降、人々は自分が身に着けた能力を視認できるようになった。
それは大まかに"戦闘系"、“補助系”、“生産系”に分かれ、本人のみが認識できる。ただし、【鑑定】というスキルに関しては例外だ。
生まれ持った人物が少ないレアスキルであるが、他者のスキルを覗くことができる。
また、各探索者協会には【鑑定】の魔道具が置かれており、登録する際は【鑑定】を受け入れることが義務となっている。
試行錯誤を重ねながら運営し、困難や苦悩を乗り越えた末、いまや世界中に必要不可欠な存在となった。
なんせ探索者協会の受付といえば、男女問わずなりたい職業ランキングぶっちぎり一位の人気ぶりだ。
しかも探索者自体の人数もかなり多く、二十歳以上の約二十%がそうである。
それはさておき、探索者協会では発見済みの魔物に対してF~Sのランク付けを行っている。
例えばゴブリン。フィクションでは雑魚モンスターとして扱われがちだが、現実となるとそうはいかない。
一体だけ、つまりはぐれ個体ならFランクだ。一般的な成人男性が、適性のある武器を持てば討伐できる。
しかし群れると話が変わってくる。彼らは動物と同様知恵を持ち、連携をとる。その場合難易度が一気に跳ね上がり、Dランクとなる。
ゴブリンですら群れるとDランク、つまり一人前の探索者にしか倒せないといわれている。ゴブリンの群れをパーティを組んで倒せれば、ようやく一人前ということだ。
そうなるとドラゴンなんてランク付けできるのか、という話になる。当然Sだ。ちなみにSランクに認定された魔物は、討伐不可という意味合いでもある。
それはダンジョンにつき各一体いると言われ、現時点で確認されているのは世界で十体のみである。いずれも、ダンジョン内の法則を解明しようとして、召喚されたものだ。
なぜそんなことが伝わっているのか。どの時も一人だけ生き残ったからである。まるで、メッセンジャーとして残されたかのように。
「とまあ、長々と失礼したね。とりあえずはこんなものかな」
『意外と知らないこともあったわ。勉強になる』
『やっぱゴブリンが鬼門だよな~あれを乗り越えられたらようやく探索者』
『またとない機会だし、教授に魔法についての見解を聞きたいな』
おやおや。そんなこと言われるとつい話したくなっちゃうじゃないか。
「魔法についてか。せっかくだし、ついでに説明しておこうか」
こっちは実技も踏まえながら説明したほうがいいだろう。
【火属性魔法】の適性がある人ならだれでも使える、【灯】を使って説明することにしよう。




