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1話 Hello, world.

味変のためダンジョン物を投下しました。

よろしくお願いします。

「あー、あー。マイクテスト。視聴者たちよ、聞こえているかな?」


 口もとにあるマイクの音量を調節しながら、目の前を飛んでいるドローンカメラを見る。


『聞こえてるし、見えてるよ』

『すげえ、本当に成功したんだ』

『これがダンジョン、初めて見た』


 視聴者たちからのコメントが、続々と投影される。どうやら無事成功したようだ。


『それにしもどうやって?ダンジョンじゃ電波が通じないはず』

『いろいろな企業や人が試してダメだったよね』

『ダンジョン配信、フィクションじゃいっぱいあるけど、現実だとね』


「ああ、これはね。私の魔法で物理的に可能にしたんだ」


 両手の親指をたたむ。するとジジジという歪な音とともに、空間の裂け目が現れる。


『これ、ダンジョンの転移門に似てる...?』

『すげえ、なんの魔法?はじめてみた』

『まさか、これ...』


「お分かりの方もいるようだね。そう、これは空間魔法さ。現状、私以外使える人はいない」


 その瞬間、コメントの流れる速度が急激に上がった。視聴者数もけた違いに跳ね上がり、もはやバグを疑うレベルだ。


『空間魔法?!やっぱり存在していたのか』

『Whoa, Miss! Spatial magic sounds awesome—can you tell me more about it?』

『魔法が使えるようになってから25年...やはりあったのか』

 

 人数が増えたからか、とたんに入り混じる様々な言語。すべてに返答してあげたいが、そうなると本題に入れない。

 残念ながらとりあえずコメントはスルーだ。


「おっと、さすがの注目度だ。自動翻訳機を使わせてもらうよ。さて、本題に戻らせてもらうが──今使ったのは、フィクションでおなじみの“アイテムボックス”さ」


 空間の割れ目に手を入れ、目的のものを取り出す。


『これは...魔石?初めて見る色だ』

『透明の魔石なんてみたことない』

『状況から察するに、空間属性の魔石?』


「ご明察。これは私が作った空間属性の魔石」


 大きさは小さい。なんせゴブリンの魔石を加工してつくったものだからね。そこはしょうがない。

 いま伝えたいのは、空間魔法を使えるうえで魔石の加工もできるという点。大きさは関係ないのだ。


『空間魔法とかいう新規魔法が使える上に、魔石が作れるほどの熟練度...?』

『未発見てことは、探索者協会にも登録していないってことだよな』

『え、不法侵入ってこと?でもあんなガチガチに警備された入口なのにどうやって...』


「不法侵入なんてするわけないさ。では、自己紹介させてもらおうかな。私は東京魔法大学教授の雛森 凛だ。これからよろしく頼むよ」


『東魔大の教授?!ってことは例のダンジョン調査権限か』

『てかそんな大物がどうしてここに...?』

『あれ、というか一人だけ?護衛は?』


 視聴者たちの疑問は最もだ。東魔大のダンジョン調査権限──これはダンジョン内の構造・法則等を解明するために、ダンジョンを研究する機関に特別に与えられた権限である。

 普通ダンジョンに入るには、探索者協会から発行されている資格を得なければならない。筆記・実技試験をクリアしたうえで、精神鑑定の末に得ることができる資格だ。

 しかしこの調査権限があると、探索者の資格がなくとも、探索者ランクC以上のパーティーを護衛とすることで特別にダンジョンに入ることができる。


「ははは。今回、私が行おうとしている検証には邪魔だから置いてきた」


『置いてきたって...』

『え、そんなことできるの』

『犯罪自白?』


 またもやコメントの流れる速度が急激に上がる。しかしながら、これは犯罪じゃない。ダンジョン発生から50年経ったいまでも、ダンジョン法には穴があるのだ。


「残念ながら犯罪じゃあない。ダンジョン法に記載される"特定機関のダンジョン調査権限について"には、『ダンジョン調査権限が付与された特定機関は、探索者ランクC以上のパーティーを護衛とすることで特別にダンジョンに入ることができる。また、ダンジョン内での事象はすべて権限を持つものに帰属される』と記載されている」


『ああ、十五年前にあったあの改正か』

『ダンジョン内における研究活動は、ダンジョンの意思(・・・・・・・・)によって妨害される、だったっけ』

『悲しい事故だった。まさかあんなことになるなんてな』


「そうだね。我が同輩にも犠牲者が出た。悲惨な事故だったよ」


 ダンジョン発生から三十五年──今から十五年前のことだ。もともと人類はダンジョン内の研究はせず、ダンジョンから持ち出された物の研究に重きを置いていた。

 正直なことを言うと、魔石、魔道具、新発見の鉱物、魔物の素材──すべてが未知であり、ダンジョン内を探索する余裕がなかったというのが正しい。


 そしてようやくダンジョン内へ目を向けることができたのが、いまから十五年前。日本各地の研究家、それに相応の護衛。それらを集めて挑んだのが、通称“渋谷ダンジョン”だった。

 出現する魔物も比較的おとなしく、難易度も低め。安全性などを考慮して選ばれたのだったが──すべてが無に帰した。


 ダンジョン一階層に入り、まず初めに行われようとしていたのはガリレオの自由落下の証明だ。なぜそれが最初に行われようとしたのかは、学界の意向である。まあ ニュートンの運動の第2法則の証明につながるそれに、文句を言う人はいなかった。

 ちょうどいい立地を探し、五階層にある中ボス広間へとたどり着いた彼ら。問題なく護衛が中ボスを討伐し、測定器具の設置した。こうしてピサの斜塔と同様の実験を行おうとした矢先──それは起こった。


 突如として地面に現れる魔法陣。そこから這い出るは一体のドラゴン。全長15メートルを優に超えており、全身が漆黒の鱗に覆われている。

 現れた漆黒の竜に逃げ惑う人々。護衛は果敢にも立ち向かうが、竜が口から吐き出したブレスによってすべて燃やし尽くされた。

 

 たった一人──私、雛森 凛を残して。


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