表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/129

第95話「お守りなのじゃ!」

 リスタ王国 王城 地下専用港 ──


 リリベットは王城地下にある専用港で、グレート・スカル号が帰港するのをじーっと海を見つめながら待っていた。巨大な船であるグレート・スカル号は、かなり遠くからでも姿が確認できるが帰港までは、まだ時間がかかる様子だった。


「まだじゃろうか?」

「そうですね。あの距離なら一時間は掛からないと思いますが……」


 ウロウロと歩き始めたリリベットに、マリーは気休め程度に目測で答えるのだった。高台にある王城から水平線上にグレート・スカル号が現れたのを確認してから、すぐに降りてきたのですでに一時間は経過している。


 しばらくして財務大臣のヘルミナも地下専用港に降りてきた。港でウロウロしているリリベットを見つけると近付いて挨拶する。


「あら、陛下……こちらにいらっしゃったのですね。あぁフェルト殿ですか」


 今回のグレート・スカル号には、他の大陸の国家を歴訪していたフェルトが乗っているはずなのだ。しかしヘルミナの言葉に、そっぽを向きながら答える。


「違うのじゃ! わたしは使節団を労おうとじゃな……」

「フェルト殿ですよね?」

「うぐ……」


 無駄な抵抗はやめてくださいと言わんばかりのヘルミナの態度に、リリベットは言葉を詰まらせて再び視線を逸らすのだった。そんな様子を見かねてかマリーが口を開いた。


「プリスト閣下は、積荷の確認ですか?」

「えぇ、ログス船長はすぐにお酒をチョロまかすので、しっかりと監視しないといけませんから」


 呆れた顔で答えたヘルミナに、マリーも苦笑いを返すのだった。




 しばらくしてグレート・スカル号が専用港に入港してくると、港の柱からいくつものアームが伸びて船を固定していく。船が完全に固定されると舷が可変して突き出すようにタラップが現れる。そのタラップからは外務大臣ヨクン・クレマンを先頭に、フェルトを含めた使節団が真っ先に降りてきた。


 リリベットは、まずヨクン大臣に向かって話し掛ける。


「長旅ご苦労だったのじゃ、ヨクン」

「わざわざの出迎え感謝いたします、陛下」


 ヨクン大臣は極めて丁寧に一礼した。リリベットは微笑みながら労をねぎらう。


「取り急ぎの案件がなければ、今日は休むがよい。報告は追ってするとよいのじゃ」

「はっ、ありがとうございます」


 その言葉にヨクン大臣は再びお辞儀をすると、フェルトを除いた使節団と共に王城へ向かって歩き始めた。フェルトはリリベットの前に進むと朗らかに笑い丁寧にお辞儀をする。


「だたいま帰りました、陛下」


 リリベットはフェルトの少し余所余所しい態度に、今にも抱きつきそうな勢いを削がれると、つまらなそうに頬を膨らませていた。その様子に彼女の頭を撫でながらウィンクをするフェルト。


「ごめん、ごめん……ただいま、リリー」

「……おかえりなのじゃ」


 そう呟くように言いながら、気持ち良さそうに頭を撫でられていたリリベットだったが、そんな幸せな雰囲気もタラップのほうから聞こえてきた怒声によって、かき消されてしまった。


「ログスさん! なんで飲んじゃうんですかっ!?」

「はっはっはっ! そこに酒があるからだぜ!」


 自信満々に語るログス船長に、ヘルミナはいつものように頭を抱えるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王寝室 ──


 その日の夜すでに消灯しており、リリベットはベッドに入っていた。しかし、その眠りを邪魔するかの如く突然ドアをノックする音が鳴り響いた。


「陛下、もうおやすみでしょうか?」


 ドアの先から聞こえた声はマリーのものだった。リリベットはベッドから身を起こすと首を傾げる。この時間に、マリーがワザワザ起こしに来るとなると火急の用件である。


「まだ起きておるのじゃ!」


 その声にマリーが手持ちのランプを持って部屋に入ってきた。その後ろには何故か暗い顔をしたフェルトが立っており、驚いたリリベットはベッドから飛び起きると、慌てた様子でフェルトたちに駆け寄った。


「どうしたのじゃ!? とにかく座るのじゃ」


 リリベットはフェルトにソファーを勧めると対面に座り、マリーに部屋の灯りをつけさせた。明るくなった部屋で、リリベットを見たフェルトは驚いて咄嗟に視線を逸らす。


「……なぜ、こちらを見ぬのじゃ?」


 フェルトの不可解な行動にリリベットは首を傾げるが、マリーに後ろからローブを羽織らされた。リリベットは薄手のネグリジェを着ており、透けていてほとんど裸と変わらない状態だったのだ。


「陛下、来客と対応する際はローブを羽織りくださいと、いつも申し上げてますでしょう?」


 マリーに窘められたが、リリベットは相変わらずキョトンとして首を傾けるのだった。


「まぁいいのじゃ……それで何があった? なにか火急の用じゃろう?」

「うん、実はしばらく(いとま)の許可が貰いたいんだ」

「ダメ……と言いたいところじゃが、ワケを申してみるのじゃ」


 すでに色々とフェルトと一緒に過ごす計画を立てていたリリベットは、本当は即答で却下したかったが、以前メアリーに「わがままは嫌われちゃう」と言われたのを思い出したので、渋々ワケを聞くことにしたのだった。


「リュウレ……僕の侍女の子を覚えているかな?」

「うむ、あの小柄な娘じゃな? そう言えば最近見ていないのじゃ」


 小柄と言ってもリリベットよりは大きいのだが、メイドの中でも特別小さいリュウレの姿からの感想だった。


「実は彼女にある調べものをして貰うために、クルト帝国へ行って貰っていたんだが……一週間前に帰国している予定だったのに、まだ帰って来てないんだ」

「ふむ……それで捜しに行きたいと申すのじゃな?」


 フェルトの真剣な顔がリュウレを心底心配しているのを物語っていたが、リリベットは首を振った。


「ダメなのじゃ! ……あの娘、ただのメイドじゃないじゃろう?」


 常にマリーと一緒にいるリリベットである。マリーと同じ雰囲気をリュウレからも感じとっていたのだった。


「きっと危険に違いないのじゃ! そんなところにお主をやるつもりはないのじゃ!」

「オズワルトもいるし、僕も結構戦えるから大丈夫さ。どうしてもダメかい?」


 懇願するような瞳を向けるフェルトに、リリベットは唸りながら考え始める。彼のお願いは聞いてあげたいが、彼の身は心配と言うジレンマである。そこにマリーが割り込んで提案してきた。


「つまり……フェルト様の身が安全なら、問題ないわけですね?」


 その自信有り気な表情に、リリベットもフェルトも首を傾げるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 翌朝、冒険者風の旅支度をしているフェルトとオズワルト、そしてマリーの依頼を受けてクリムゾン隊長のコウジンリィ、同副隊長のシグル・ミュラーが女王執務室を訪れていた。


「お呼びに預かり参上致しました、主上」


 敬礼したジンリィも制服ではなく旅支度をしていた。リリベットはやや不機嫌そうな顔をして腕を組みながら尋ねる。


「うむ、ご苦労なのじゃ……今回は任務ではないのじゃ、断ってくれてもかわまぬのじゃぞ?」

「あははは、可愛い子を助けにいくんだろう? 是非もないさね」


 楽しそうに笑って答えたジンリィに、リリベットは黙って頷いた。彼女が今回の依頼を受けたのは、特定の任務を持たないので日々訓練ばかりで、少々飽き飽きしていたということもあるようだった。


「それではジンリィ、フェルトの護衛を頼むのじゃ。期間は二週間……その間のクリムゾンの指揮は、副隊長のシグルに任せるのじゃ」

「はっ!」


 ジンリィとシグルの二人は敬礼して答えると、今度はフェルトが一歩前に出る。


「ごめんね、リリー」

「二週間! 二週間じゃぞ?」

「わかってるよ、必ず二週間以内に帰ってくるさ」


 微笑みながらウィンクするフェルトにリリベットは無言で近付き、しゃがむように彼の袖を引っ引っ張る。彼は首を傾げてから傅くようにしゃがんだ。


「どうしたんだ……いっ?」


 フェルトは驚いたように目を見開いている。リリベットが急に首に手を回して、彼に抱きついたのである。しかし、すぐに離れると彼らから背中を向けてしまった。



「お……お守りなのじゃ、も……もう行くがよい!」



 フェルトは右手で自分の頬に軽く触れてから、立ち上がると口元を緩める。そして耳まで赤くなってるリリベットに向かって


「それじゃ、行って来るよ」


 と言って部屋から出て行くのだった。





◆◆◆◆◆





 『グレート・スカル号の酒』


 ヘルミナは注文した積荷とリストを確認すると、ほっとため息をついた。ちゃんと想定していた数が揃っていたからである。彼女は、()()飲まれてしまうのを前提に、必要な分より多めに注文しているのだ。


「まったくログスさんも懲りない人ですね……」


 そして飲まれてしまった分は、きっちり海洋ギルドのレベッカに請求することで、国庫に損害が出ないようにしているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ