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第77話「確保なのじゃ!」

 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 リスタ王国建国記念日である『リスタ祭』を一週間後に控え、城下ではリスタ祭の準備が大詰めになっていた。そんな中、新しく大臣に就任した学芸大臣タクト・フォン・アルビストンが、リリベットの執務室に報告のために訪れる。


「陛下、学府及び南西エリアの開発の件でですが……」

「うむ、進捗はどのようじゃな?」


 アルビストン大臣は、資料を執務机の席に座っているリリベットに差し出した。リリベットはそれを受け取ってペラペラと捲って内容を確認する。


「思ったより進んでおるようなのじゃ?」

「はい、順調に推移しております。校舎の方はほぼ完成しており、現在は街道の整備と周辺の店舗や寮などの建築が進んでます。……とは言えリスタ祭が始まりますので、やはり当初の予定通り完成までは数ヶ月はかかるかと」


 リスタ祭の期間はすべての国民は一週間休日になり、その間の作業が止まるのだ。そんなアルビストン大臣の報告に、リリベットは頷くと資料を執務机の隅に置いた。


「うむ、ではそのまま進めて欲しいのじゃ」

「はっ」


 リリベットの言葉にアルビストン大臣は敬礼で答えた。リリベットの表情がフッと柔らかくなる。


「さて、タクト殿……お主がこの国に訪れてまだ数ヶ月しか経っておらぬが、生活の方は順調じゃろうか?」

「お心遣い感謝致します、陛下。そうですな、今は城に住まわせていただいてますが、住居は南西エリアに建てておりますし、食事も海鮮が美味ですな。帝都は内陸でしたので、新鮮な海鮮を口にするのは難しかったのですよ、はははは」


 軽快に笑うアルビストン大臣につられて、リリベットも微笑むがふと大臣の手で光っている物に目がいった。


「ふむ、順調そうでなによりなのじゃ。ところで……お主、結婚しておるようじゃが、家族は帝都に住まわせておるのじゃろうか? もし良ければ王都に連れてくると良いのじゃ」


 リリベットの問い掛けに驚いた表情を見せる大臣だったが、彼女の視線が自分の左手の指輪に向いているのに気が付き、納得したように頷いた。


「あぁ結婚指輪(これ)でございますか、(アレ)とは死別しておりまして、子もおりませんので……」


 亡き妻を思い出したのか大臣が少し暗い顔をすると、リリベットは済まなそうな表情を浮かべて


「それはすまなかったのじゃ。謝罪を受け入れて貰えるじゃろうか?」


 と謝罪した。一国の王に頭を下げられている状況に、慌てた大臣は首を振りながら答える。


「いやいや、謝罪は必要ありませんよ。(アレ)と死別したのは十年以上前でしてな、未練がましく結婚指輪(こんな物)を付けている私が悪いのです」

「死別して十年以上、夫婦とはそれほど……」


 と呟いたリリベットに、大臣は納得したように頷く。


「そう言えば他の大臣に伺いましたが、陛下は最近夫婦について尋ねるのがお好きだとか?」

「うむ……『夫婦とは何なのか?』と尋ねておるのじゃが、皆一様に最初に『人によりますが』と付けよるのじゃ。そして毎回違う答えが返ってくる! きっとわたしが子供だと思って、話をはぐらかせておるのじゃな!」


 子供のように怒るリリベットに、まるで自分の娘でも見ているように温かい眼差しで微笑む大臣。


「はははは、皆さん嘘は言ってないと思いますよ。夫婦とは、それほど複雑なのです」

「むむむ……よくわからぬのじゃ」


 大臣の言葉も納得できないのか、唸りながら首を捻るリリベットだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 ファムの店『狐堂』 ──


 客足も遠退く夕暮れ時、そろそろ店じまいかと考えていたファムの『狐堂』に、可愛らしい声と共に大勢の男女が押し寄せてきた。


「たのもーなのじゃ!」


 リリベットと共に店の中に入ってきたのは、近衛隊と衛兵隊の混成部隊二十名ほどで、すぐにファムの身柄は確保された。


「なんや、なんや!? ウチがいったい何したって言うねん!」


 リリベットは腕を組んで、ファムを見つめながら問い詰めるように尋ねる。


「ファムよ、お主……なにやら怪しい薬を取り扱っておると聞いたのじゃ」

「薬やて、そんなん……」


 そこまで言うと、店の奥からピンクのポーションを持った衛兵が戻ってきた。


「見つかりました! これじゃないでしょうか?」

「うむ」


 リリベットはその瓶を受け取ると、それをファムに見せるようにして突き出す。


「これを惚れ薬と称して売ろうとしたじゃろう? そのような魔法薬は、我が国では違法なのじゃ!」

「ちょ……ちょっとまってぇな! それ惚れ薬やない、似たようなもんやけど違法なもんとちゃうわぁ」


 ファムの弁明に、リリベットは首を傾げながら尋ねる。


「違うじゃと……では、どんな薬なのか申してみるのじゃ」

「えぇ、ここで言うん!? それはちょっと……あぁ、そこのアンタ! アンタに教えるからアンタから伝えたってや」

「なんで私が?」


 と答えたのは、リリベットの後ろに控えていた近衛隊長のミリヤムである。


「ちょいと陛下ちゃんに聞かせるには……アレなんよ」


 ミリヤムは面倒そうな顔をするが、後ろから両手でリリベットの耳を塞いで


「そこから小声で呟きなさい、私には聞こえているから」


 と自慢の長い耳を微かに動かす。ファムがボソボソっと薬の効能を話すと、ミリヤムは赤い顔をしながらリリベットの耳から手を離した。その様子にリリベットは心配そうな顔で尋ねる。


「どうしたのじゃ?」

「え~たぶん違法なものじゃない……と思うわ?」


 目を泳がせながら言ったミリヤムに、不審な表情を浮かべたリリベットは、ピンクのポーションの蓋に手をかけながら


「それなら、コレをわたしが飲んでも大丈夫なのじゃな?」

「それはダメ!」


 ミリヤムは慌てた様子でリリベットから小瓶を奪い取り、彼女が届かない位置まで持ち上げる。リリベットは、再度奪い取ろうとピョンピョンと飛び跳ねている。


「返すのじゃ~」

「この薬は飲んじゃダメなやつよ。あとは衛兵隊に任せて行きますよ、陛下」


 そう言ってリリベットを誘導するように、小瓶をヒラヒラさせながら店の外に出て行くミリヤム。彼女は途中で振り返るとゴルドに向かって


「わかってると思うけど、あとは頼むわよ」

「あぁ、わかってるよ」


 この後、衛兵隊から『怪しい売り方』を注意されたファムは、数時間後になんとか解放されるのだった。ちなみにファムの店に衛兵隊がなだれ込んでくるのは今回が初めてではなく、その都度厳重注意をされている。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 大通り ──


 狐堂からの帰り道、近衛隊は城に向かってぞろぞろと歩いている。その中に、あの日以来少しギクシャクしているレイニーとラッツの姿があった。


 隊長のミリヤムの周りを、リリベットがピョンピョンっと跳ねているのをボーっと眺めながら歩いているレイニーは、ふと『枯れ尾花(ガスト)』に続く路地裏を見て哀しげな顔をしている。


 そんなレイニーに元凶であるラッツが声を掛ける。


「レイニー、ボーっとしてどうしたんだ?」

「えっ? あぁ、ラッツ君……ううん、なんでも無いよ」


 最近様子がおかしく話題が続かないレイニーに、ラッツは何かよい話題がないか考えていたが、ふとレイニーが見ていた路地裏を見て話題を思いつく。


「あぁ、そうだ。レイニー、この路地の向こうに美味いコーヒーを出してくれる店があるんだよ」

「……コーヒー?」


 あまり興味のなさそうな声で聞き返してくるレイニーに、ラッツは無理にでも話を続ける。


「ロバートさんって爺さんがやってる『枯れ尾花』って宿屋なんだけど、あんなコーヒー飲んだことなかったよ。まぁ頼んでから一時間も掛かるんだけど……」


 暗い雰囲気を何とかしようと喋り続けているラッツに、レイニーはボソリと聞き返した。


「それ……マリーさんと行ったお店?」

「そうそう、あれ? もう話したっけ? そうそう、せっかく一緒に出かけたのに、ちょっと買い物してコーヒー飲んだだけで終わった悲しいデートの話の中で、唯一の収穫になった店の情報だよ」


 自分を元気付けようと失敗談を陽気に話すラッツをみて、レイニーはフフッと微笑む。


「どうせラッツ君のことだから、ノープランだったんでしょ? ダメだよ、女性を誘う時はちゃんと考えておかないと!」

「うぐっ、どうしてそれを……」


 いきなり元気になって、自らの失敗をまるで見てきたかのように抉ってくるレイニーに、ラッツは苦笑いを返すのだった。





◆◆◆◆◆





 『奇妙な噂話』


 リスタ王国建国祭、通称『リスタ祭』に参加するため移動中のフェルトは、リスタ王国西側のレティ領を通過していた。


 レティ領の領都であるレティターンに宿泊した際、宿屋の一階にある酒場で食事をしていると奇妙な噂話が聞こえてきた。


「いや、本当だって!」

「嘘くせー、リスタ王国先王に女王以外に遺児がいるだって? 面白くもねぇネタだな、作り話をするならもっとマシなの作れよ! がはははは」


 その後の会話は豪快な笑い声によって聞こえなくなったが、フェルトは苦笑いすると、あまり美味くもないワインを口にする。


「まったく、くだらない噂だね」

「フェルト様……あいつら、うるさい? ()る?」


 物騒なことを言い始めたリュウレを宥めながら、フェルトは再びワインを口にするのだった。

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