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第70話「国境警備なのじゃ!」

 リスタ王国 王城 先王妃寝室 ──


 生誕祭が行われてから二週間が経過していた。本日もリリベットは、母の様子を伺いに彼女の寝室を訪れている。


「ミリヤムとゴルドが、また喧嘩してたのじゃ!」

「あらあら、それは大変ね」


 いつもの様に娘の他愛もない話を微笑みながら楽しそうに聞いているヘレンだったが、会話が切れた瞬間ふと暗い顔になる。その微かな表情に陰りを感じ取ったのか、リリベットは慌てた様子で席を立つ。


「母様! む……無理はよくないのじゃ。マーガレット!」

「……はい」


 リリベットに呼ばれた先王妃付きメイドのマーガレットは、すぐにヘレンに手を貸して彼女を寝かせつけた。


「心配させてごめんなさい。でも平気なのよ?」

「ダメなのじゃ! わたしはいつでも来るから、安静にしてて欲しいのじゃ」


 リリベットは首を振ってそう答えると、何かを我慢するような表情で自室に戻っていった。そんな娘を見送ったヘレンだったが、マーガレットに頼んで一通の開封済みの手紙を取って貰う。実はヘレンは体調が悪くなったわけではなく、ふとこの手紙のことを思い出してしまったからだった。


 手紙は数日前に届いた彼女の兄であるフェザー公からの手紙で、内容はフェルト・フォン・フェザーには現在リリベット以外にサリナ・クルトとの縁談話があり、決断は本人に任せることにするという連絡だった。


 ヘレンとしてはフェルトなら娘を任せられると思っていたし、自分の娘が世界一可愛いと思っているが、相手がサリナ・クルトとなると血統やフェザー家の立場から、旗色が悪い気がして気落ちしていたのだった。


「……困ったわね」


 ヘレンはそう呟いてから、しばらく考え込むのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 翌日の昼頃、リリベットは兼ねてよりの懸案だった学府設立について考えていた。


 この国の中枢は建国の際に祖父に付いてきた重臣とその子孫、または国外から流れてきた優秀な人材が担っている。それに対して国民の学力向上を図り、未来に向けて優秀な人材を国内からも輩出させたいというのが彼女の考えである。


 この議題を止めていた国防に関しては、近衛隊の増員は遅れているがクリムゾンの新設や衛兵隊の増員を含め、基盤は出来つつあると感じていた。


 学府設立に関しては、色々と法整備や予算についても考慮しなくてはならないので、事前に宰相フィンと財務大臣ヘルミナを部屋に呼び、リリベットを含めた三名がソファーに座って話し合っている。


「さて先に通達してあった通り、兼ねてよりの懸案であった学府設立について話し合いたいのじゃが……」

「私のほうでまとめた素案になりますが、こちらをご覧ください」


 宰相が何枚かの書類をスッとテーブルに置くと、リリベットとヘルミナは書類を手に取り、しばらく読み始める。


 書類にはいくつかの校舎建設候補地や建設にかかる概算、教員の選定や教本などの仕入れなどに関しても事細かにまとめられており、リリベットはおろかヘルミナさえも唸るレベルの提案書になっていた。


「驚きました……正直この予算であれば、すぐにでも始められるかと思います」


 あまりに無駄も無理もない予算組みに、ヘルミナは感心したように頷いた。ヘルミナも常人に比べれば才気溢れる女性だが、やはり宰相の方が国政に関しては一枚も二枚も上手だと言える。


「うむ、さすがは宰相なのじゃ。この候補地からじゃと、どこがよいじゃろうか?」


 宰相とヘルミナは少し考えると、二人とも王都南西部の書類を指差した。王都の南西部は今だ未開発のエリアで広い土地が残っており、巨大な校舎を建てるのに都合が良い点、校舎をランドマークとして周辺の開発計画を立てやすい点、それによる経済効果などが主な理由として挙げられた。


 デメリットとしては王城や市街地から少し離れているので、移動方法などの整備が必要になることが挙げられる。


 リリベットは力強く頷くと、宰相に議会を通すように伝えるのだった。


 そして三日後に行われた大臣たちも参加した会議で、宰相の案は全会一致で議会を通過した。これによりリスタ王国は、学府新設に向けて動き出すことになったのである。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 東の城砦 関所 ──


 その数日後、リスタ王国の東の城砦で一つの事件が起こっていた。


 レグノ領方面の国境を守っている東の城砦では、先の『幼女王の初陣』以降、暇な日々が続いていた。それまではレグノ領側も、定期的に斥候隊を出して挑発してきたりしていたのだが、あの日以来ほとんど監視砦から出てこないのである。


 この城砦を守っているリスタの騎士には、レグノ領方面の監視以外にも関所の管理を行っている。リスタ王国へ入国するためには城砦の関所を通らなくてはならないが、国是により移民は自己申告さえすれば外国での罪は問わないことになっているため、ちゃんと手続きさえすればリスタ王国への入国はさほど難しくはない。


 しかし自己申告せずに後に罪が発覚した場合、どんな些細な犯罪であってもかなりの確率で極刑に処される厳しい面もある。


 そんな関所で暇そうに欠伸をしている騎士が、同じように眠そうにしている同僚に向かって声を掛ける。


「ふぁ暇だな……」

「あぁ今日は商人が数人と通っただけで、ほとんど人が来ない……そして、いい天気だ」


 東の城砦から王都までは荷馬車で六~七時間ほどかかるため、商人がリスタ王国へ訪れる際はレグニ領の村で宿泊してから朝方に関所を通ることが多い。その為、それ以外の時間は基本暇なことが多かった。


 そんな暇そうにしている騎士たちを他所に、見張り台に立って国境側を眺めていた従士が異変に気が付いた。


「土煙です! 前方に土煙が見えます!」


 その声に座っていた椅子から飛び起きると、従士に向かって関所の責任者である小隊長が叫ぶ。


「状況は詳しく知らせろ!」

「は……はい、馬上の人物が一人、複数に追われているようです!」


 その返事と共に、城砦の方からも警鐘が鳴り響いた。この警鐘は総員警戒の合図である。


「馬を引け! 関所を閉じろ!」


 小隊長の命令に応じ、従士たちが関所の扉を閉じて馬を引いてきた。その馬に騎乗すると騎士からも一人の男性が追われているのが見えた。


 小隊長は受け取った槍を掲げながら、同じように騎乗した四人の騎士や六人の従士たちに向かって


「あの場所はすでに国境内だ。敵かも知れない気をつけろ。いくぞ!」


 と叫ぶと、一気に土煙のほうへ馬を走らせるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 東の国境付近 ──


 急行した騎士たちが見たものは、倒れて泡を吹いている馬と落馬したと思われる男性を取り囲むように、十人程度のフードの男たちが剣を抜いている風景だった。


「小隊長、いかが致しますか?」

「領内に無許可の武装集団だ、敵として認定する。蹴散らせっ!」

「はっ!」


 その命令に騎士と従士たちは槍を腰に構えると、そのまま突撃隊列を組み、武装した集団に突撃を敢行した。


 突然現れた騎兵に驚く暇もなくフードの男たちは槍に刺され、馬に跳ねられて一瞬の内に壊滅状態に陥った。小隊長は馬を反転させると、その生き残った三人に向かって叫ぶ。

 

「武装を解除せよっ! お前たちは我が国の領内に武装した状態で侵入している。これは命令である! ただちに武装を解除せよっ!」


 怯えた表情のフードの男たちは、持っていた剣を投げ捨てて降参の意を示したため、小隊長は部下に捕縛を指示し、気絶している追われていた男共々、東の城砦に引き上げることにした。


「さて……こいつらは何者なんだ?」





◆◆◆◆◆





 『騎士のお仕事』


 リスタ王国の騎士団『リスタの騎士』の主な仕事は国境の防衛である。その一環として関所にて入出国管理も行っているが、朝方などを除き暇な時間は訓練などに明け暮れていた。


 今回の出来事のように武装した賊が侵入した場合は、現場の判断で討伐するのも仕事の内である。

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