表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/129

第64話「連合旗なのじゃ!」

 ノクト海 シー・ランド海域 海上 ──


 髑髏模様の下に交差したカトラスの図が描かれた『クロス・カトラス』と呼ばれる旗が、グレート・スカル号のマストにはためいた瞬間、この海域の戦況が急激に変化した。東から南東まで回り込んだ一団の内、半数以上が一斉にクロス・カトラスの旗を掲げたのである。


 しかも旗を掲げた船たちが掲げていない船に対して一斉に砲撃を開始、次々と航行不能にしていったのだ。突如隣を奔っていた味方の船から攻撃をされた海賊たちは何も出来ず、次々と白旗を上げて降伏していった。


 このクロス・カトラスは連合旗と呼ばれ、グレート・スカルとその傘下の海賊たちが掲げていた旗である。突然反旗を翻した海賊たちは、元グレート・スカルの傘下だった海賊たちだった。


 この状況を説明するには、四十年前まで遡る必要がある……。



◇◇◆◇◇



 シー・ランド海域のとある港町 ──


 これは海賊船『海熊』の船長 トク・ベアが、若い頃に見た風景である。


 浅黒い肌に黒い髪と立派な髭を蓄えた船長と、虎髭の船長がジョッキを片手に話している。このトク・ベアによく似た虎髭の船長は先代船長でトク・ベアの父だった。


「オルグよ、本当に行くのか?」

「おうよ、俺たちは陸に上がる。ロードスのバカ野郎の国造りを手伝ってやることにしたんだ」


 そう言いながら、まだ黒髪だったオルグは目を輝かせながらニカッと笑う。先代ベア船長は豪快に笑いながらオルグの肩を叩く。


「がっはははは! 何スカしたことを言ってやがる! あいつ(ロードス)の嫁さんの(ケツ)を見てたいだけだろ、テメェは!」

「いてぇな、この野郎! あの(ケツ)にゃ全てを賭ける価値があんだよ!」


 そんなふざけた会話をしながら、二人して豪快に笑いあいジョッキを合わせる。


「本当は俺も付いて行きてぇが、俺は海賊しかできねぇ男だ」

「わかってるよ、そんなことは……傘下の連中は殆どは置いていくさ」


 この時の大海賊グレートスカルは、傘下も含めると五百隻以上の文字通り大海賊団である。事実上のシー・ランド海賊連合の王であったが、オルグは頑なに「面倒くせぇ」と海賊王を名乗ることはなかったのだ。


 リスタ王国建国に際して、オルグとグレートスカルが陸に上がることを決意したのも、膨れ上がりすぎたグレートスカルに挑んでくるバカがいなくなったからかもしれない。


 もう一度、ジョッキを合わせると二人ともニヤリと笑う。


「じゃ、そろそろ行くぜ。また海で逢おう、ベア船長!」

「あぁ次に会ったら、うっかりその間抜け面に砲弾撃ち込んじまうかもしれねぇがな!」


 そして、オルグが背中を向けて歩き出した時、先代ベア船長が叫ぶ。


「おい、オルグ! もし再び連合旗(クロス・カトラス)が掲げられたら、それがどんな状態であっても俺らはお前のもとに集う! これは仲間だった連中の総意だ!」


 これは何時でも戻ってこい! という先代ベア船長からの餞別であり、永遠の友情を誓う言葉だ。これに対してオルグは振り返らず手を振ると、そのまま歩き去るのだった。


 物陰でそれを見ていた若い頃のトク・ベアは、憧れの眼差しで伝説の海賊オルグの背中を見送ったのだった。



◇◇◆◇◇



 そして、時は現在に戻る……



 ノクト海 『レッドスカル』 甲板上 ──


 グレート・スカル号の正面にいた一団でも同様の現象が起きており、レッドスカルの甲板上も大混乱に陥っていた。


「いったい何が起きてやがるんだ!?」

「わ……若、逃げてくだされ、囲まれてしまいますぞ」


 喚き散らすしかできないフォレス船長に、縋りつくように懇願する副長。このレッドスカルも元傘下であったが、フォレス船長が小言を言われるのを嫌い、老齢のベテラン船員たちは他の船に移されてしまったため、傘下時代を知っているのはすでにこの副長の老人だけだった。


 突然、雷が落ちたような轟音と共に船全体が激しく揺れ、船員の何人かは海に放り出されてしまう。


「な……何事だ!?」


 悲鳴に近い叫び声を上げたフォレス船長の言葉に、答えてくれたのは乗り込んできた多数の海賊たちだった。船尾に海賊『海熊』の衝角(ラム)を突き刺され、白兵戦に持ち込まれたのである。


 慌てて腰のカトラスを引き抜くフォレス。すでに殆どの船員たちは海に落とされるか斬り殺されており、残っているのはフォレス船長と副長だけだった。フォレスを囲んだ船員たちを掻き分けるように前に出てきたベア船長は、大型のカトラスを肩に乗せてトントンと叩いている。


「この裏切りものどもがぁ!」


 フォレスの悲壮感漂う罵倒は、ベア船長に鼻で笑われた。


「おい、若造。この船は俺らがいただく! ここで死ぬか海に飛び込むか選べや」

「ふっざけるなぁぁぁぁ!」


 咆哮を上げながらカトラスを振りかぶりベア船長に襲い掛かるが、ベア船長の力任せの振り下ろしに腕ごと切り落とされてしまう。


「いぎゃぁぁぁあぁぁ!」


 大量の出血とともに悲鳴を上げるフォレスにトドメを刺そうと、再びカトラスを振り上げるベア船長だったが、その間にレッドスカル副長の老人が割って入る。


「どうか! どうか、若をお許しくだされ!」


 邪魔をされたベア船長は興が醒めたのか、振りかぶったカトラスを下げると部下に向かって命じる。


「おい、縛り上げとけ……無駄だと思うが、一応止血もしてやれ」

「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 ベア船長は、頭を下げる老人には一瞥もせず、他の部下に命令を伝えていく。


「停船だ、錨を降ろせぇ! グレート・スカル号には船を制圧したと手旗信号で送れ」


 そのしばらく後、中央で動けないでいたオクト・ノヴァから停戦命令が出たことにより、シー・ランド大海戦の幕は閉じたのである。


 死者数 約百名

 行方不明者 約百五十名

 大破轟沈 四隻

 航行不能 六十四隻


 様々な要因はあったが終わってみれば、概ねリスタ王国の思惑通り、この規模の海戦にしては少ない被害で戦いを終わることができたのである。



◇◇◆◇◇



 ノクト海 グレート・スカル号 甲板 ──


 ノクト海で行われていた戦闘が終わった数時間後、グレート・スカル号と、シー・ランド海賊連合旗艦 オクト・ノヴァが接舷していた。


 現在グレート・スカル号の甲板では、船長のログス・ハーロード、その父オルグ・ハーロード、海賊船『海熊』の船長 トク・ベア。それにオクト・ノヴァ船長のピケル・シーロードの四名による戦後処理の会談が執り行われようとしていた。


「お前がピケルか、親父似てねぇな」

「ははは、よく言われますよ。貴方がキャプテン・オルグですね? 初めまして、私がピケル・シーロードです。お噂は父からかねがね……」


 この物腰が優しくとても海賊には見えない男性が、シー・ランド海賊連合の現在の長であり、オクト・ノヴァの船長であるピケル・シーロードである。オルグは豪快に笑いながらピケルの肩を叩く。


「がっはははは、ワシはもうキャプテンじゃねぇ。……という訳で後のことは息子と話してくれや! オラッ海熊の小倅、ワシらは食堂にいくぞ! 酒だ、酒!」

「えっ? あぁ」


 オルグはそう言いながら緊張気味のベア船長の肩に手を回すと、一緒にその場を後にするのだった。その二人を見送ったあと、ログスはピケルに手を差し出す。


「騒がしくすまんね。俺が、この船の船長ログス・ハーロードだ」

「いえ、よろしくお願いします」


 ガシッと力強く握手をする二人。しばらくして手を離すと、ログスはさっそく交渉に入る。


「わかってると思うが、俺らはシー・ランド海賊連合と敵対するつもりはねぇんだ」

「……では、要求は何でしょうか?」


 海賊に限らず絶対的優位者が優しく出るときは必ず裏があることは、身内から海賊よりは商人のようだと蔑まれているピケルにはわかっていた。


「なぁに、俺らが欲しいのはノクト海の安全な航海だけさ! 今まで通りリスタ王国(おれら)の船を襲わなきゃそれでいい」

「随分欲のない要求ですね? つまり今回のことは示威行動だったわけだ」


 ピケルの言葉に、ログスは感心したように笑うと頷いてみせる。

 

 今回の海戦は、抑止力として弱まりつつあったグレートスカルへの恐怖を再び思い出させるための戦であり、今回の出来事で間違いなく十年は、リスタ王国の船を襲おうなんてバカなことを考える奴は出てこないだろう。


「あぁ、わかってると思うが、今回こっちに回った連中に処罰を与えないでくれ」

「後が怖いから、そんなことはしませんよ。まぁ……船を壊された連中との争いになるかもしれませんが、そんなことは海賊ならいつものことでしょう?」


 そう言いながら苦笑いを浮かべるピケルに、ログスは豪快に笑うのだった。


「そりゃ違ぇねーや、がっはははは」


 こうしてリスタ王国とシー・ランド海賊連合は、正式に不干渉の約束を取り決めたのだった。





◆◆◆◆◆





 『グレート・スカル号の船医』


 グレート・スカル号には美人女医がいる。名前をルネといい王室付侍医のロワの孫娘だ。


 船の上ではすぐに陸の医者にかかることはできないため、内科、外科、産婦人科など何でもこなす名医である。そのため船長を含め荒くれ者の船乗りたちも、彼女には頭が上がらないのだった。


 そんな彼女の元に一人の患者が運び込まれたのが数時間前、片腕を失った男性は大量に出血していたが、応急処置がよかったのと彼女の技術で何とか一命と取り留めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ