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第53話「初陣なのじゃ!」

 リスタ王国 東の城砦前 ──


 リスタ王国の東、レグニ領方面の国境線を守っている東の城砦は、騎士団長ボトスが守将を務めている。西の城砦と同じく、こちらも都市機能があり人口も同じく三千程度である。


 現在、城砦前では騎士、従士、劇団『運命の紬糸(ノルニル)』の面々、そして城砦内で暮らす人々によって、テントや舞台の設営が進められていた。城砦の上からそれを眺めている騎士団長ボトスは、隣にいる商人ファムに向かって感心した様子で口を開く。


「短い期間じゃったのに、よくぞこれだけの数を仕入れてくれたな」

「いやぁ~うちに任せて貰えれば、これぐらいすぐですわぁ……それで旦那、他に入用なもんは?」


 と目を輝かせながら尋ねてくるファム。今回、必要な様々な物はファムの人脈によって揃えられたもので、彼女がこの国に来て商売に成功したからこそ実現できたことだった。


「今のところ無いな。人が集まりだしたら食事などの手配が必要じゃが……」

「その辺りもバッチリ手配済みやで、任せときぃ……せっかくのお祭りや、うちもたっぷり稼がせて貰うわぁ」


 これから稼げるお金のことでも考えているのか、ファムは嬉しそうに尻尾を振りまくっているのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 南門 ──


 王城から大通りを抜けた先にある南門は、陸路で王都から出入りする際に必ず通る王都の正門である。南門で近衛隊のレイニーと衛兵隊数名が、門から出て行く国民に対して木工ギルドで製作して貰った杖を配布していた。


「はーい、これをお使いください~道中気をつけてねっ!」

「どうも、ありがとう。兵隊さんたちも頑張ってね」


 門を通る一人一人に笑顔で杖を渡していくレイニー。受け取っ人々は皆一様に笑顔で、杖を突きながら東に向かって歩いていった。その顔にはこれから起きる何かを、待ちきれない感じの表情が窺えたのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 リスタ港 ──


 その翌日リスタ港の船乗り場では、多くの人々が船に乗り込んでいた。この船はリスタ王国が海洋ギルドに依頼して用意させた輸送船団である。


 こちらでも近衛隊のラッツと衛兵隊が、やはり木工ギルド製の杖を配布していた。


「はいはーい、これを持って行ってください〜。向こうに着いてから少し歩きますから~」


 次々と杖を配っているラッツに、小さな女の子が駆け寄って笑顔で手を差し出す。


「お兄ちゃん、私にもそれ頂戴!」

「おっ、メアリー! 君も行くのかい?」


 と言いながら、メアリーに短めの杖を渡すラッツ。


「うんっ! 楽しみだね、お兄ちゃん!」


 杖を受け取ったメアリーは、楽しそうに杖で地面をトントンっと叩くと、それに合わせてピョンピョンとはしゃいでいる。その様子にラッツも笑顔を浮かべながら頷く。


「あぁそうだね。でも、あまりはしゃいで海に落ちるなよ?」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 城門広場 ──


 リスタ王城の正門内の広場では、東の城砦から派遣された騎士十名、その従士二十名、衛兵百名がすでに待機している。その中央には白馬三頭が牽く、戦車が用意されていた。


 その隊列の中を、鉱人(ドワーフ)が製作した、前面には美麗な装飾を施してあり、左右には大きな羽飾りがついた白銀の冑をかぶり、白いマントを羽織ったリリベットが宰相にエスコートされて戦車まで歩いてくる。


「おぉ!」


 その凛々しい姿に周りからは歓声が上がる。リリベットも満更では無いようで若干自慢げな顔をしている。そして戦車までたどり着くと、宰相と共にその戦車に乗り込むのだった。


 戦車の左右には近衛隊隊長のミリヤムと、今回の発案者であるシグル・ミュラーが騎乗で待機している。


 リリベットは戦車の上から、綺麗に整列している将兵の様子を満足そうに見回してから頷くと、一度深呼吸して腰から短剣を引き抜き天高く突き上げる。それと同時にミリヤムが声高々と「開門!」と叫ぶと、王城の正門が徐々に開き始めた。


 正門が開ききった時点で、リリベットは短剣を振り下ろしながら叫ぶ。


「出陣なのじゃ~!」


 リリベットの声に反応して、音楽隊がファンファーレを吹き鳴らし、隊列を組んだ将兵が進み始めた。リリベット・リスタ、齢八歳にして晴れの舞台への初陣である。



◇◇◆◇◇



 ソーンセス公国 城 会議室 ──


 丁度その頃、ソーンセス公国では会議が執り行われていた。もちろん議題は、国境付近で示威行動を繰り返しているレグニ領主軍についてである。


 レグニ領主軍がソーンセス公国との国境付近で、示威行動を始めて早二ヶ月ほど経過していた。将兵はもちろん国民の限界も近い状態である。鎧姿の青年騎士は、バンバンっと机を叩き苛立ちながら叫ぶ。


「もはや我慢できませんっ! 出撃して奴らを追い出しましょう!」

「ならんっ! 帝国と戦争をすれば滅びるのは、こちらだぞ!」


 血気盛んな青年騎士を諌めたのはベテランの老騎士、タイル大臣も同じく頷いている。しかし最近頭角を現し将軍になった中年男性は、顎鬚を擦りながら意見を述べた。


「だが、あそこを押さえられたら陸路が使えん。あれでは経済封鎖をされているようなもの。生き残るためには、戦うしかないのだ」

「むむむ……」


 老騎士は唸りながら発言を続けることはできなかった。将軍の言葉は正論であり、このままの状態が続けば経済的に国が滅びるか、国民が反乱を起こすかの二択であることは、誰にでもわかりきっていたのである。


 将軍は立ち上がると、周りを見ながら凛とした声で問いかける。


「奴らは所詮三千、こちらは二千、確かに数の上では奴らが有利だが士気はこちらのが高い。それに後ろには同盟軍もいる! やはり、こちらの力を見せて『迂闊に手を出せない国』と、わからせるしかないと考えるがどうだろうか!?」


 軍事力のない国の言葉など、大国の耳には届かない。これは常識であり真実である。この将軍の言葉に軍部はもちろん文官たちも頷くが、タイル大臣のみが慌てた様子で止めに入る。


「しょ……将軍、お待ちくだされっ! 今頃、リスタ王国のリリベット様が、解決に向けて尽力くださっているはずでございます!」


 タイル大臣が必死に諌めにかかるが、将軍は呆れた様子でため息をつく。


「また、その話か……大臣、貴方がリスタ王国で何を言われたのか存じませぬが、あの国が今まで動いてくれたことはない! 彼らは自国を守るのが精一杯なのだろう! それが悪いとは言わぬが、他国を期待してこれ以上時を浪費するのは愚策であろう!」

「しかし、約束の一月までは後三日ある! 将軍、お願いします。なにとぞご再考を……」


 必死のタイル大臣の説得だったが、将軍は首を振り席を立つ。


「どうやらタイル大臣以外は賛成なようだ。兵を展開して前面に押し出します。合わせて同盟各国に連絡……攻撃は()()()に行うと!」


 そう言うと軍は会議場から出て行ってしまった。四日後にすることで、国の重臣であるタイル大臣の顔を立てた形ではあるが、戦争を開始すれば国が滅びることと理解しているタイル大臣は、目を瞑りながら祈るように呟いくのだった。


「リリベット様……もはや貴女の策が上手くいくことを祈るしかありませぬ」





◆◆◆◆◆





 『一枚のビラ』


 リリベットたちが王都を離れ、王都の留守を任された財務大臣ヘルミナ・プリストは、街の様子の視察に出かけていた。


 街にはいつもの活気はなく、大通り店などは臨時休業状態になっている。


「寂しいのものね……」


 人がいなくなった大通りに一陣の風が吹く、帽子が飛ばないように押さえるヘルミナの足元に、一枚のビラが飛んできた。


 ビラは最近王国中に撒かれた王国主催の祭りの告知だった。それを拾い上げると、ヘルミナは空を見上げながら呟くのだった。


「陛下、御武運を……」

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