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第52話「調査なのじゃ!」

 リスタ王国 王都 海洋ギルド『グレートスカル』会長室 ──


 近衛隊のミリヤムとラッツの二人が、海洋ギルド『グレートスカル』に訪れたのは、ヘルミナが木工ギルドへ依頼に行った翌日の昼頃だった。


 二人が今回海洋ギルドに訪れたのは、財務大臣ヘルミナからの依頼があったためで、現在王国内では各地で様々な調整が行われおり人手が足りない状況になっていた。


 会長室に通された二人はソファーに座り、対面にはギルドの長であるオルグ・ハーロードと経理担当で彼の孫であるレベッカ・ハーロードが座っている。レベッカがラッツを見ながらニヤニヤと笑う。


「今日は違う女連れてんだな。あはははは、若いねぇ」

「いやいや、この方は隊長ですから」


 右手を左右に振って否定するラッツに、ミリヤムはジト目を向ける。


「貴方の女癖を、とやかく言うつもりはないけど……」

「女癖って……うぅ、また誤解が膨らんでいく」


 と言いながら困った表情で頭を抱えるラッツ。レベッカやオルグもそんな様子をみて笑っていた。一頻り笑うと急にレベッカが真剣な顔になった。どうやら仕事モードに切り替わったようだった。


「さて、それじゃ本題に入ろうか? アンタら、今日は何の用で来たんだい? 大臣ちゃんや陛下ちゃんじゃないってのは珍しいねぇ」


 ミリヤムは頷くと書類を取り出し、スッとレベッカの前に差し出す。


「今日はプリスト卿の代理で来たのよ。これを見てくれる?」

「どれどれ……輸送計画書?」


 レベッカは渡された輸送計画書に一通り目を通してから、隣に座っているオルグに渡す。


「グレート・スカル号を使わずに、この規模の輸送かい……中型船三十隻と大型船五隻ってところかねぇ?」


 その数は漁船などの小型船舶を除いた、現在リスタ王国内にいる半数程度である。そのためかレベッカは難しい顔で唸っている。オルグも計画書に目を通した後、難しい顔をしていたが突然ミリヤムを見つめながら尋ねる。


「そこの嬢ちゃん。ちょっと立ってくれんかのぉ?」

「嬢ちゃんって、言わないで! 私は、こう見えても貴方の倍近くは生きてるわ!」


 と怒りながらも、素直に立ち上がるミリヤム。


「そうかい、そうかい、そいつぁ済まなかったなぁ。ちょっと後向いて貰えんか?」

「一体なによ?」


 怪訝そうな顔をしながらも後を振り向くと、オルグはじーっと見つめながら、うんうんと頷き一言。


「やっぱり、ええ(ケツ)じゃのぉ!」

「なんなの……この人?」


 オルグに臀部をジロジロ見られても特に気にした様子はなかったが、ミリヤムは呆れた顔でそう呟いて再びソファーに座る。祖父の行動にレベッカも呆れた顔で溜息をついた。


「爺様いい加減にしろって……それで輸送中の費用はどうなってんだい?」

「その辺りは、ちゃんと支払うことになっているわ。その期間中は商売が止まることも含めてね」

「へぇ、あの大臣ちゃんにしては大盤振る舞いだねぇ……どうするよ、爺様?」


 レベッカはすでに決めていたようだが、最終確認として会長であるオルグへ話を振る。するとオルグは豪快に笑い出し


「がっはははは、ええ(ケツ)の姉ちゃんの頼みは断れん! 細かい日程が決まったら連絡を寄越せや!」


 と力強く答えるのだった。


 こうしてラッツたちは、無事に海洋ギルドの協力も取り付けることに成功した。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 工房『土竜の爪(ドリラー)』 工房長室 ──


 同じ頃、リリベットはマリーと護衛のレイニーを連れて、工房『土竜の爪(ドリラー)』 工房長室を訪れていた。


「なんじゃい、ロードスの孫じゃねぇかぁ」


 部屋に入ってきた三人に、ガヴェイン工房長が声を掛けてきた。相変わらずの髭で表情は伺い知れない。そんなガヴェイン工房長に、リリベットは軽く右手を上げながら挨拶をする。


「久しぶりなのじゃ、工房長」


 ガヴェイン工房長に勧められるまま、リリベットは木製の椅子に座る。マリーとレイニーは椅子のサイズが合わないため、リリベットの後で控えていることになった。


「それでぇ、何の用だぁ? この前のお前らが発注した武器防具の生産で忙しいんだがなぁ」

「すまぬが……割り込みで、作って欲しい物があるのじゃ」


 リリベットがそう言うと、マリーがテーブルの上に、スッと仕様書を置く。その仕様書を手に取ったガヴェイン工房長が、それを読みながら唸っている。


「こいつぁなんだ? 随分小さいがドワーフ用の防具かぁ?」

「違います。使用者の名前とサイズも書いてありますでしょ?」


 マリーの言葉にガヴェイン工房長は再び仕様書を見て、豪快に笑いながら立ち上がる。そしてのしのしとリリベットに近付いた。


「なんじゃ、どうしたのじゃ? ……わぷっ」


 ガヴェイン工房長は、いきなりリリベットの頭に手を置くと左右に揺らし始めた。リリベットは両手を突き上げて暴れて抗議する。


「やめるのじゃ! 首が、もげるじゃろうが!」

「がっははは、何を言っておる。撫でてやってるだけで、もげるわけ無かろうがぁ」


 パッと手を離し豪快に笑いながらそう言うと、ガヴェイン工房長は席に戻っていく。


「だいたいわかった、任せろぉ。十日後に届けさせるわぁ」

「お……おぉ、助かるのじゃ、よろしく頼むぞ!」


 依頼を受けてくれたことに、安堵の溜息を漏らしたリリベットは、ボサボサになった髪を押さえながら席を立ち、工房長室から立ち去るのであった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 宰相執務室 ──


 王国中で色々準備が開始されてから、すでに二週間ほどが経過していた。宰相の下に彼の子飼いの密偵が報告に訪れている。密偵から手渡された報告書に目を通してから、宰相は安心したように微笑む。


「ふむ、仲の良い女性は多いが、特定の女性との交際の形跡はないか……まぁ念のための調査だったが、問題なさそうだな」


 と呟きながら、ページを捲って彼の護衛の項目を見る。少し驚くが納得したような表情で頷く。


「なるほどな、あのオズワルトと言う騎士は……ポート家の者か」


 ポート家、その三男が女王暗殺を企てた罪で処刑され、帝国内でも懲罰的に貴族の位を剥奪されて滅んだ家である。オズワルトは自決したポート男爵の嫡男で、本来であれば彼がポート家が継ぐ予定だったのだ。


 彼は元々フェルトの騎士に就いていたが、あの事件以降『彼を解任せよ』という周りの意見が多くなった。しかしフェルトは頑なにそれを聞き入れず、彼を騎士として起用し続けている。そのことに恩義を感じたオズワルトは、彼に絶対の忠誠を誓っているという。


 続いてリュウレの項目を見て、宰相は眉を顰める。


「こちらの項目には、なぜ記載がないのだ?」

「申し訳ありません。しかし、その者は手練でして迂闊に近寄れず……」


 密偵は頭を下げながら謝罪する。宰相は困ったような表情を浮かべると、その密偵に対して


「いや……お前程の者が、そこまで言うなら間違いないのだろう。何か憶測でもいいのだが、お前の意見を聞かせてくれ」

「はっ……おそらくですが、彼の直属と言うよりは、フェザー家子飼いの者ではないかと」


 フェザー家はクルト帝国内でも有数の公爵家であり、宰相のように子飼いの密偵を有していてもおかしくはなかった。彼が言っているのは、おそらくフェザー公が息子を心配してつけている護衛なのだろうということだった。


「なるほど……すまないが、無理のない範囲で調査を続行してくれ」

「はっ」


 密偵は敬礼すると静かに部屋から出て行った。宰相はそれを見送ってから軽く溜息をついて


「彼とフェザー家の意向が、常に同じであれば問題ないのだがな……」


 と呟くのだった。





◆◆◆◆◆





 『リスタ王国の船舶』


 リスタ王国は大陸有数の海洋国家である。


 王都の三方は海に面しており、保有船も国の規模に比べればかなり多い。中型以上の殆どの船は元海賊船であり、現在も武装商船として活躍している。


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