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第47話「大好きなのじゃ!」

 リスタ王国 王城 通路 ──


 宰相フィンに同盟の件の調整を任せ、マントと王冠を脱いだリリベットはフェルトと共に母の寝室へ向かっていた。同行するのは近衛隊長のミリヤム、フェルトの護衛であるオズワルトの二名である。


 フェルトの方を向きながら、少し気まずそうな顔でリリベットが尋ねる。


「フェルト、プライベートで政の話はしたくないのじゃが……レグニ侯爵とは、どのような人物なのじゃ?」

「レグニ侯爵かい? 僕もお会いしたのは数回だけだけど、そうだな~……一言で表すなら軍人っという感じかな? 先代は武人って感じだったらしいけど」


 フェルトの答えにリリベットは首を傾げた。


「軍人と武人は、何が違うのじゃ?」

「両方武官ではあるけど、武人は自身の力と信念に生きる人、軍人は合理的な考え方をする人って感じかな?」


 よくわからないと言った顔で首を傾げているリリベットを見つめて、フェルトはクスクスと笑っている。リリベットは笑われたことに腹を立てたのか、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「ごめん、ごめん! 怒らないでよ、リリベット。……でも、そんなことを聞いてきたのは同盟関連かい?」


 その言葉にリリベットは驚いた顔をするとフェルトの方を向く。


「な……なぜわかったのじゃ!?」

「さっき謁見の間の前で、ソーンセス公国のタイル大臣とすれ違ったからね」


 フェルトはリリベットに微笑みながらウインクをする。フェルトはクルト帝国の外交官であり、当然近隣諸国の外交官などにも面識がある。国内外の情勢にも詳しく、現在レグニ領と同盟の関係も把握しているようだった。


「サリマール陛下は同盟との戦争……というより戦争自体を望んでいないから、レグニ侯爵と言えど、帝国側(こちら)からは攻撃を仕掛けたりできないはずだよ。今回の示威行動も帝都で議題にあがるのも時間の問題じゃないかな? ただ少し時間はかかるだろうね」


 帝国の領地は大陸全土に及ぶほど広大で、帝都の皇帝がレグニ侯爵の行動を諌めようとしても、状況の確認や伝令などで数ヶ月はかかると予想される。大国は大国なりの問題があるということだろう。


 リリベットが少し難しい顔をしていると、ヘレンの部屋の前まで辿り着いていた。リリベットはパァっと笑顔になると、フェルトに向かって


「それでは入ろう。母様もきっと喜ぶのじゃ」


 と告げると、ミリヤムがドアをノックするのであった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 先王妃寝室 ──


 ミリヤムとオズワルトは控えの間で待つことになり、現在部屋にはリリベットとフェルトの他に、この部屋の主である先王妃へレン、そして彼女付きメイドのマーガレットのみになっている。


 フェルトとリリベットの顔を見ると、ベットの上で白いローブを羽織ったヘレンは朗らかに微笑み。


「よく来てくれましたね、フェルト。それにリリーも、嬉しく思います」


 ヘレンの言葉に、フェルトはお辞儀をした。


「叔母様、ご無沙汰しております」

「母様、お加減はいかがなのじゃ?」


 ベッドサイドには椅子が二脚用意されており、その椅子に座りながらリリベットが尋ねると、ヘレンは優しげに微笑んだ。そのままリリベットの隣の椅子にはフェルトが座ると、懐から封書を取り出して


「叔母様、父上から書状を預かってまいりました」


 フェルトの言葉にヘレンは側に控えたマーガレットを目配せする。マーガレットは頷くとフェルトより封書を受け取り、サイドテーブルのペーパーナイフで開封してからヘレンに渡した。


「ありがとう、マーガレット」


 手紙を受け取ると、マーガレットにお礼を述べてから手紙を読み始める。


 しばらくして読み終わると、手紙を封筒に戻しマーガレットに手渡す。そしてフェルトとリリベットの顔を、交互に見てから満足そうに頷くと嬉しそうに笑った。そのヘレンにリリベットはキョトンとした顔で首を傾げながら尋ねる。


「どうしたのじゃ、母様?」

「貴女たちを見ていると、昔の私と兄様を見ているようね」


 フェルトは穏やかな叔母の微笑みに、少し照れながら答える。


「あははは……僕はあまり父には似てないと思いますが」


 フェルトの父、フェザー公爵は無骨な武将という雰囲気の男性で、実際剣術の腕も帝国随一と言われ『剛剣公』の名で呼ばれる豪傑である。ただし幼少の頃から身体の弱い妹のヘレンには、とことん甘かったようで過保護な一面もある。どちらかと言うと線の細いフェルトとは似ても似つかないが、ヘレンから見れば何時も優しくしてくれた兄の面影を感じるようだった。


「母様と似てる……へへへなのじゃ~」


 逆にリリベットは、髪は短いものの幼い頃のヘレナにそっくりである。ただし内面は身体が弱かったヘレンとは違い活発な性格だった。ヘレンはニコニコと笑っている娘に、微笑みかけながら尋ねる。


「リリーは、フェルトのことが好きかしら?」


 突然の問いに首を傾げたが、すぐに満面の笑みになって


「うむ、大好きなのじゃ」


 と答えた。面と向かって言われたフェルトは、顔を赤くしながら照れた様子で視線を逸らしている。ヘレンはそんな二人の様子をみて優しく微笑むのだった。


 三人は会話を楽しんだが、ヘレンの体調を考慮して半時ほどで終了になった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 近衛隊詰所 ──


 その日の夜、フェルトを招いた晩餐会が王城で行われた後、寝室に戻っていったリリベットをマリーとレイニーに任せ、ミリヤムとラッツは詰所に戻ってきていた。部屋の中央に用意された机を挟んで座っている二人。


「ラッツ、ちょっと仕事を頼みたいのだけど」

「突然何ですか、隊長?」


 ミリヤムは真剣な顔になると、机に肘をついて手を組んで顎をそこに乗せると、小声で囁くように答えた。


「フェルト殿の寝室に探りを入れて欲しいの」

「なっ!?」


 ラッツは驚いて立ち上がる。ミリヤムは人差し指を鼻先に置くと静かにというジェスチャーをした。ラッツは大人しく座ると小声で尋ねる。


「隊長……何考えてるんですか?」


 リリベットを始め、宰相のフィンですらフェルトに関しては信頼している節があり、特に警戒した様子をみせないのだ。そんなフェルトを探れと言われれば、ラッツが驚くのも無理はなかった。


「勘違いしないで、探って欲しいのはフェルト殿の方じゃないわ。彼と一緒にいたオズワルドって男の方よ」

「あの人、ただの護衛騎士でしょ?」


 ミリヤムは首を振りながら続けた。


「ただの騎士にしては只ならぬ気配だったし、陛下が彼のことを聞いた時、フェルト殿は明らかに動揺していたわ。とにかくちょっと調べるだけでいいから」

「隊長命令なら仕方がないですが……ちょっとだけですからね?」


 ラッツはそう言うとため息をついてから席を立つ。そして着替えるために部屋の奥へ消えていくのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 貴賓室 ──


 この部屋は、しばらく前まで怪我を負ったライムが使っていた部屋だが、今では本来の目的の貴賓室として使われている。本日はフェルト・フォン・フェザーが利用しており、その隣の部屋に騎士オズワルトが宿泊していた。


 その屋根裏に忍び込んだ黒装束に身を包んだラッツは、中の様子を探るために息を潜めている。


 部屋の中では、フェルトとオズワルトが話していた。


「……オズワルト卿」

「フェルト様、私はもう貴族ではありません……卿をお付けになるのはおやめください」


 フェルトの呼びかけに、オズワルトは首を振って訂正する。


「そうだったね。そんなことより、あの件はリリベットは悪くないのだから、彼女にあまりきつく当たるのは……」

「わかっております。ただ、まだ心の整理が……」


 その会話に聞き耳を立てていたラッツは首を傾げていた。


「オズワルト卿? それに一体何の話をしているんだ?」


 その瞬間、何かが空を切る音が聞こえ反射的に横に避けるラッツ。肩口から燃えるような激痛が走ったが悲鳴を無理に噛み殺し、先ほどまで自分がいた場所を睨み付けると、そこには小柄な黒い影がいた。


 その影は声もあげず、そのままラッツの方へ飛びかかり、手に持ったナイフを振り下ろしてくる。ラッツは逃げずに踏み込んで振ってきた腕を掴むと、そのまま一緒に倒れ込むように相手を叩き付ける。


 その衝撃で天井が抜けて、相手共々ラッツは部屋の中に落下していった。





◆◆◆◆◆





 『フェザー家の嫁入り試合』


 リリベットの父、すなわちリスタ王国先王ロイドと、ヘレン婚約が決まった際にはある逸話が残っていた。


 ヘレンの兄、後の『剛剣公』が「護れる奴でなければ、ヘレンはやれん」と言い放ち、先王に剣の勝負を挑んだのだ。


 しかし公式記録はなく、結果は知っているのは当人たちだけだった。


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