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第46話「二人の使者なのじゃ!」

 リスタ王国 王城 謁見の間 ──


 本日は二件の謁見が予定されていた。謁見の間では、いつものように正装をした女王リリベット、側に控えるのは宰相フィンと近衛隊の三名、衛兵隊からはゴルドを含めた衛兵六名が参加していた。


 あまり堅苦しいことが好きではないリリベットに合わせて、謁見の場であっても不要な人員を配置することが少ないリスタ王国だったが、今回の謁見では普段より厳重な警備体制が敷かれていた。


 まず謁見の間に入ってきたのは、やや頭髪が後退している中年の男性で口髭を生やしており、あまり派手ではなく控えめな貴族風の服を着ていた。その男性は顔を伏せながら玉座の前まで来るとそのまま傅く。


「ソーンセス公国、外務大臣タイル殿です」


 宰相による男性の紹介が行われる。ソーンセス公国とはリスタ王国の東方にある小国で、七国同盟を構成する国家の一つだ。リリベットは右手を軽く上げながら


「タイル殿、面をあげて立つとよいのじゃ」


 と告げると、タイル大臣は顔を上げてリリベットを見てから、そのまま立ち上がると一礼する。


「リリベット・リスタ陛下、ご壮健なようで何よりでございます。此度は謁見の機会をいただき感謝致します」

「ふむ、お主も壮健なようで何よりなのじゃ。して……本日は如何なるご用件かの?」


 宰相フィンはもちろん、リリベットも用件などわかっているのだが、儀礼上()()()尋ねる。タイル大臣もそれはよくわかっているのか朗らかに笑う。


「ふぉふぉふぉ……何度も申し訳ありませんが、此度も同盟加入の件でございます」

「ふむ、ならば答えはわかっておるのじゃろう?」


 というリリベットの言葉に頷いたタイル大臣は苦笑いをしつつ


「『我が国は帝国と事を構えるつもりはなく、故に同盟に加入するもつもりはない』ですな?」


 と答える。その言葉にリリベットは、ゆっくり頷くのだった。


 このやり取りは毎回のことで、いつもは無理に説得などはせずに引き下がるタイル大臣だったが、今日は少し様子が違っていた。リリベットの顔を見ながら改めて膝を折る。


「恐れながら女王陛下におかれましては、レグニ領の動向をご存知でしょうか?」


 引き下がらなかったタイル大臣に驚きつつも、宰相フィンを一瞥するリリベット。宰相が頷くのを確認するとリリベットは口を開いた。


「うむ、レグニ領が兵を動かしているという話は聞いておるのじゃ」

「さすがでございます、陛下。現在レグニ領主軍は我らが七国同盟との国境沿いで、軍事演習を繰り返しております。これは明らかに示威行為……挑発でございます」


 リリベットは目を瞑りながら頷く。それを同意と感じタイル大臣は話を続けた。


「同盟内では、この示威行為に対して主戦派と現状維持派に別れております。無論、帝国に対して戦など無謀もよいところであることは重々承知でおりますが、度重なる挑発に国民が爆発寸前なのです」

「それは貴国の問題、我が国とは関係のない話じゃと思うのじゃが……?」


 と首を傾げるリリベットに、タイル大臣は頭を下げながら必死に食い下がる。


「わかっております。されど、ここでリスタ王国が同盟に加入していただければ国民は安堵し、レグニも東西を挟まれる形になります故、迂闊な行動もできますまい? それに万が一同盟が滅ぶようなことがあれば、レグニの目が貴国に向かうのは必定! 何卒、ご一考お願い申し上げます」


 タイル大臣が言っていることは真実である。同盟が暴発してレグニ領と戦争になれば、ほぼ間違いなく同盟は滅びる。そして、その矛先はリスタ王国に向かうことになるだろう。リリベットは少し悩んで、宰相を近くまで招くと小声で一言二言話し合い、再びタイル大臣へ向かって告げた。


「おそらく……よい返事は出来ぬが、この事に対して議会にかけることと、我が国のルートで帝国に示威行為を控えるように働きかけることは約束するのじゃ」


 その言葉にタイル大臣は深く頭を下げる。これがリスタ王国側から引き出せる最大限の言葉であることは、彼もよく承知していたからである。


 こうして、ソーンセス公国外務大臣タイルとの謁見が終ったのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 謁見の間 ──


 タイル大臣が下がり、次の謁見が開始されようとしていた。続いて謁見の間に入ってきたのは、リリベットの従兄フェルト・フォン・フェザーである。そして彼の後には見たことがない騎士風の男がついてきていた。


 リリベットはフェルトの顔を見るとパァっと笑顔になったが、公務中であったことを思い出して澄ました顔で玉座で姿勢を正した。


 フェルトの服装も青を貴重とした貴族風の格好をしており、騎士風の男は使い込まれた鎧にマントを羽織っており帯剣はしていなかった。おそらく謁見の間の前で衛兵に預けたのだろう。


 フェルトと騎士は、玉座の前で傅くとリリベットの言葉を待った。


「フェルト殿、面を上げるとよいのじゃ」

「はっ」


 フェルトが顔を上げると、リリベットはそのまま立つようにジェスチャーを送っていた。それに合わせてフェルトが立ち上がる。


「フェルト殿()、久しぶりなのじゃ」

()()()()も、壮健なようで」


 リリベットもフェルトも共に笑顔を送りあっている。二人とも公的な場ということで、お互いに敬称をつけることも忘れてはいない。


「本日は、母様へのお見舞いということじゃったな?」

「はい、後ほど叔母様への謁見の許可もいただきたく思います」

「もちろんじゃ。その時はわたしも一緒に行くとするのじゃ」


 リリベットはフェルトの後に控えている騎士を一瞥すると


「フェルト殿、そちらの騎士殿は誰なのじゃ?」


 と尋ねる。フェルトが騎士に声をかけると、騎士は傅いたまま顔だけを上げた。


「こちらは僕の騎士 オズワルトです、陛下」

「オズワルト殿? お主も立つがよいのじゃ」


 リリベットの言葉にオズワルトも立ち上がり、フェルトの一歩後まで近付いた。それに合わせてリリベットの後に控えていた近衛隊長のミリヤムも、リリベットの横まで進み出ていた。リリベットはそんなミリヤムを一瞥するが、特に気にせず話を進める。


「フェザー家の騎士であれば、貴族じゃろう? 姓は何と言うのじゃ」


 オズワルトは答えなかったが、フェルトが少し慌てた様子で彼の前に出ると答えた。


「オズワルトは貴族ではないんだよ、リリベット」


 急に素に戻ったフェルトに少し驚いた様子のリリベットは、誰にも聞こえないような小声で呟いた。


「フェルト、何を動揺しておるのじゃ……何かを隠しておるのか?」


 フェルトの様子に疑問を持ったが、リリベットは軽く首を横に振ると少し済まなそうな顔をオズワルトに向ける。


「それは済まなかったのじゃ」

「いえ、そう思われるのは当然かと……」


 リリベットの謝罪に、オズワルトはお辞儀をしながらそう短く答えるのだった。フェルトは真剣な顔をしてから懐から一枚の書状を取り出す。


「女王陛下、こちらを」


 と言って差し出す。ミリヤムがフェルトの所まで進んで受け取ると、リリベットの所まで戻り封を切ってから書状を手渡す。リリベットは封を開けると書状を読み始めた。読み終わると書状を宰相に渡す。


「これは伯父上からのようじゃな」

「はい父からの『先の事件』への見舞の目録です。お納めください」


 書状には、帝都からの()()()よりは少なかったが、実際に事件を起こしたポート家よりの()()()よりは、多額の見舞品が書かれていた。リリベットは首を傾げながら


「嬉しくは思うのじゃが……フェザー家は特に関わりがないことなのじゃ」

「陛下はフェザー家の血を引いておられますし、あの事件には国民の被害も少なからず出ているのでしょう? 彼らのためにお使いください」


 国民のために使えと言われると無下に断ることもできないが、意図のわからない物は受け取らないのが賢明である。リリベットが断ろうとすると宰相が小声で耳打ちした。少し驚いた顔をしたリリベットだったが気を取り直して答えた。


「う……嬉しく思うのじゃ、伯父上には感謝状をしたためる故、帰国の際は持っていって欲しいのじゃ」

「わかりました。ありがとうございます」


 フェルトはお辞儀をするとリリベットに優しく微笑むのだった。リリベットはその笑顔に少し見とれると慌てて


「そ……それでは謁見は以上とするのじゃ。フェルト殿、このまま母様の所に向かうのじゃ」


 と言って、玉座から飛び降りるのだった。





◆◆◆◆◆





 『ソーンセス公国』


 七つの国によって成る七国同盟の盟主国で、規模的にはリスタ王国より少しだけ大きい。


 特産は繊維産業で、ソーンセス産の織物はムラクトル大陸内外でも人気の高い商品だ。比較的穏健派の国だが最近軍部を掌握した将軍が主戦派であり、帝国との間に危険な状態が続いている。

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