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第44話「祝勝なのじゃ!」

 リスタ王国 王城 謁見の間 ──


 大猪討伐から戻ってきた討伐隊が、王城に到着した時にはすでに深夜になっていた。そんな時間であるにも関わらず女王との謁見が特別に許可され、一行はリスタ王城の謁見の間に通されていた。


 しかし、すでに就寝の時間が過ぎているため、玉座ではリリベットが眠そうな顔で座っている。玉座側にはリリベットの他に、今回依頼を出した財務大臣ヘルミナと、討伐に参加した近衛の代わりに護衛として残っていたマリーが側に控えていた。


「むにゃ……まずは、無事に帰ってきてくれたことを嬉しく思うのじゃ」


 ぼーっと前に並ぶ十三人の顔を一通り眺めてから、視線をジンリィのところで止めて彼女をじーっと見つめる。明らかに異質な存在が混じっており首を傾げている。


「衛兵隊、近衛隊、木工ギルド、皆が力を合わせてくれたようじゃな……して、お主は知らぬ顔なのじゃ?」

「こちらは今回手助けしてくれたコウジンリィよ、かなりの達人で今回の討伐は彼女の功績が大きいわ」


 というミリヤムの紹介に、ジンリィは胸のところで左手の平に右拳を押し当ててお辞儀をする。これがジオロ式の敬礼のようだった。


「お初にお目にかかる。コウジンジィが孫、コウジンリィと申します」

「お~……コウ老師の……?」


 リリベットは玉座を立つと、フラフラとジンリィの元へ歩いていき、力尽きるように彼女の足に抱きついた。突然抱きつかれジンリィは戸惑いながら辺りを見回す。慌ててマリーがリリベットを抱き上げると眠そうな声で告げた。


「うむむ……すまぬが、やはり頭が回らぬ……褒賞に関しては、ヘルミナに一任するのじゃ。報告は明日改めて……スゥ……」

「はっ」


 ヘルミナが敬礼すると、リリベットはそのまま寝息を立て始めてしまった。マリーは彼女を抱き上げたまま一礼すると、謁見の間から出て行くのだった。その様子を熱っぽい視線で見送ったジンリィは


「アレが主上? 何とも可愛いらしい。庇護欲をそそると言うか……」


 と小声で呟いた。


 リリベットが中座した謁見の間では、そのままヘルミナが褒賞の話を続けていた。まず参加者全員に十分な金貨が支払われ、特別褒賞として討伐隊隊長であるゴルドには「禁酒解除」、それに異国の出自ながら多大な活躍を見せたコウジンリィには、本人の希望で「グレート・スカル号での渡航許可」が下りた。


 ジンリィが渡航許可を求めたのは、単純に普通の航路ではノクト海を迂回しなくてはならず、その場合陸路と合わせて二月以上かかるが、グレート・スカル号であればそのままノクト海を横断でき、七日でジオロ共和国まで戻れるからである。


 そして褒賞を受け取った一行は、そのまま木工ギルドへ移動を開始した。無論、祝勝会のためである。王城への登城前にギルドに寄って宴会の準備を依頼しておいたのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 木工ギルド『樹精霊(ドリュアス)の抱擁』前の広場──


 ヘルミナに調査依頼を出した時点で木工ギルドはガルド山脈を封鎖したため、このままでは職を失うのでは? という恐怖がギルド内に蔓延していた。しかし今回の勝利でそれが回避されたため、その開放感からか一行が木工ギルドに着く頃には、すでにお祭り騒ぎになっていた。


「おぅ、オメェーら、やってるかぁ~?」


 ギルドの会長であるヴァクスは、バトルアックスを掲げながら酒盛りをしているギルドメンバーたちに声をかける。


「お~親方だ! 俺たちの英雄のお帰りだ~!」

「親方~」


 盛大な歓声を持って迎え入れられた一行は、そのまま宴へと突入していくのだった。




 そして、二時間ほど経過し……宴の会場はカオスな様相を成していた。


 まずはジンリィの胸に目がくらんで、飲み比べを挑んだ木工ギルドと衛兵隊の面々は軒並み酔い潰されており、かなり酒に強いヴァクスすらも大の字で眠っている。そんな中、ゴルドのみが豪快に笑いながらジンリィと一緒に飲んでいた。


「がはははは、姉ちゃん、よく飲むなぁ」

「あはははは、いやぁアンタもやるねぇ、私についてこれる男は珍しいよ」


 この二人に関しては、もはや樽ごと飲むような勢いである。そんな酒豪たちを余所にラッツは疲労困憊な様子で正座していた。この二時間の間に「暑い」と言って脱ぎだしたレイニーを慌てて止めたり、今は酔っ払ったミリヤムに説教を食らっている最中である。顔を真っ赤にしたミリヤムは腰に左手を当てて、右手の人差し指で何度もラッツを指しながら


「だいたい君は、女と見たら小さい子から大人まで手を出しすぎぃ……そんなに大きい胸がいいかぁ!」

「そ……そんな事言ってませんよ、隊長~」

「あ~……何の話だっけ? そうそう、君は……」


 という感じで途中まで話すと、最初に戻り何度も説教がリピートしているのである。しかも正座しているラッツの膝は先に眠ってしまったレイニーが膝枕として使っているため、逃げ出すことも出来ずもはや拷問に近い状態だ。


「くっ、あ……足の感覚が……」


 とラッツは涙目で呟くのだった。



◇◇◆◇◇



 翌朝、リスタ王国 王都 木工ギルド『樹精霊(ドリュアス)の抱擁』前の広場──


 その日の朝は、目を覚ましたレイニーが自分の服が肌蹴ている事に動揺して、近くにいたラッツを殴打するところから始まった。


「きゃぁぁぁぁ!」

「ぐぼぅ!」


 寝ていて無防備なところに入った拳が脇腹に突き刺さったことで、ラッツはうめき声を上げて転がっている。


「あ……あたし、な……何でこんな格好なのよ! 何をしたの、ラッツ君!?」

「な……なにもしてない……デス」


 脇腹を押さえながら何とか弁明したラッツだったが、その言葉が耳に届いているのかいないのかレイニーは涙目で服を整えている。そんな中一人の衛兵が宴会場跡地へ訪れていた。


「すみません、ゴルド隊長は……?」


 レイニーはその衛兵をキッと睨むと、死屍累々と転がっている男たちの方を指差した。衛兵はそちらを一瞥するとあまりの有様に顔を顰めたが、倒れている男たちの中心に未だに酒を飲んでいるジンリィと、その横に蹲っているゴルドを発見したのだった。


 衛兵はゴルドに近付くと、敬礼をして用件を伝える。


「女王陛下より伝令です、ゴルド隊長! 討伐隊を伴い、一時間後に登城せよとのことでした!」


 衛兵のでかい声に頭が割れそうになったが、ゴルドは手を上げてなんとか返事をする。


「グヴァァァァ(わかった)」


 伝令を伝え終えた衛兵は再び敬礼してから、その場から去っていった。ゴルドは何とか立ち上がると、周りに転がる男たちを見て呆れた様子で呟くのだった。


「……これ、一時間でなんとかなるのか?」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 謁見の間 ──


 一時間後、謁見の間では、ゴルド、ミリヤム、ラッツ、レイニー、ジンリィのみが玉座の前で並んでいた。玉座に座るリリベットは


「昨日はご苦労であったのじゃ、皆無事……」


 と言いかけて、数が明らかに少ない列に気が付くと指差し確認をする。


「……じゃないようじゃな、一、二……五人? 他の者はどうしたのじゃ?」


 その問いにゴルドは、頭を掻きながら疲れきった顔で


「いや~面目ない。祝勝会で皆酔いつぶれちまって動けねぇんだわ」


 と半笑い状態で言う。リリベットは呆れた顔をすると、ミリヤムの顔を見ながら尋ねる。


「それでミリヤムの顔が真っ青なのじゃな?」

「不覚だわ……昨晩の記憶がないの」


 頭を押さえながら、そう返すのは真っ青な顔をしたミリヤムである。リリベットは、そんな中で一人だけ平気そうなジンリィを見て感心したように尋ねた。


「確か、お主はジンリィ殿じゃったか? 昨晩は失礼したのじゃ。どうやら、お主は飲まなかったようじゃな?」

「いえいえ、大変美味しくいただいたよ。こっちの酒もなかなかいけるねぇ」


 ケロッとした顔で笑うジンリィに、リリベットは首を傾げている。


「……まぁいいのじゃ。まずは我が国の問題に助力いただき感謝するのじゃ。褒美は渡航許可とのことじゃが、聞いた話ではかなりの貢献だったとか? そこで、わたしからも何か褒賞を取らせたいと思うのじゃが……何がよいかの?」


 リリベットが喋っている様子をニコニコと見つめていたジンリィは、ジオロ式の敬礼をする。


「それでは主上、一つお願いがございます」

「うむ、なんじゃ?」


 リリベットは姿勢を正し聞く体勢になる。ジンリィはしゃがみ込むと両手を広げて


「主上を抱きしめさせてくださいな」


 と告げたのだった。リリベットは一瞬何を言われたのかわからないと言った顔でポカーンっとしていたが、気を取り直すと確認のために尋ね直す。


「抱きしめたいじゃと? わたしを? う~む? まぁ良いのじゃ」


 リリベットは不思議そうな顔をして首を傾げてながら、玉座を下りるとジンリィの前まで歩を進めた。ジンリィはそんなリリベットを微笑みながら迎えると、抱き締めてからだっこのように抱き上げた。豊満なバストに支えられ、温かくフカフカな抱かれ心地にリリベットも気持ち良さそうに目を瞑る。


「あぁ、やっぱりこの守ってあげたくなる華奢な感じ! 私はずっとこの武の捧げるべき方を捜していましたが……決めました、私を貴女の臣下にお加えください。貴女に振りかかる万難を振り払って差し上げます」

「な……なんじゃと!?」


 あまりの予想外な嘆願にリリベットは驚きながら、大きな瞳をさらに大きくしている。戸惑いながらも、ゴルドやミリヤムのほうに視線を送ると二人とも大きく頷いていた。


 戦力として見てもジンリィの実力は二人も認めるところで、ミリヤムに至ってはどうやって近衛に誘おうかと考えていた程である。それを察したのか、リリベットはぎこちなく笑うと彼女に返事をするのだった。


「う……うむ、嬉しく思うのじゃ」

「ありがとうございます! 一度、親父殿のところに戻らなければないませんが、必ず戻って参ります」


 ジンリィは嬉しそうに返事をすると、リリベットをさらに強く抱きしめるのだった。





◆◆◆◆◆





 『武神の婿取り』


 コウジンリィは、その強さから武神と称される女傑である。


 年頃になった際、父の命令で一族から婿を取れと言われたが、逆に自分より強い者でなければいらないと言い放ち婿候補百名を返り討ちにしたことがあり、『武神の婿取り』として今でも笑い話になっている。


 実は庇護欲をそそる小動物が大好きで、子猫を拾っては次々と飼っていたため、実家を猫屋敷にして追い出された。現在は猫たちと共に別宅で住んでいる。

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