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不都合な間取り  作者: 遠山枯野
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2. 甘い罠

 美咲が皿を洗う手を止めて振り向くと、男は椅子に寄りかかってぐったりしていた。ビールのグラスは空になっている。数時間は眠り続けることだろう。


 男のジャケットのポケットにそっと手を入れると、鍵が見つかった。


 この牧野という男。一見はどこにでもいる善良なサラリーマンに見える。しかし、美咲の疑念は変わらなかった。この男が連続殺人事件の犯人である可能性が高い。


 一昨年の春と秋、去年の秋と、3回。手口はどれも似ていいた。若い一人暮らしの女性が性的暴行を受け、無残に体中を刃物で切りつけられて、裸のまま放置された。殺害された場所と遺棄された場所は異なっていた。犯人は現場にも遺体にも証拠を一切残していない。かなり慎重な性格を見て取れる。おそらく同一人物による犯行と思われるこの一連の事件の主担当は今泉刑事、そのアシスタントが美咲だった。


 調査を進めるうちに美咲が気付いたことがある。3人目の被害者が居住していた部屋の隣に事件当初から住んでいるのがこの牧野だ。2人目、つまり一昨年の事件の被害者は別のアパートに住んでいたが、その隣に住んでいたのも彼だった。引っ越した先でも、隣に住む女性が被害者になる。こんな偶然があるだろうか。


 美咲は今泉に意見を求めた。

「それならすでに調査したよ。その男にはいずれの事件にもアリバイがある。彼はあり得ないよ。」

 美咲は腑に落ちなかった。もう少し調査すべきだと、訴えた。

「しかたないな。それなら君ひとりで納得いくまでやったらいい。ただし、くれぐれも無茶はするなよ。」


 美咲がこの事件のアシスタントを志願したのには理由がある。3人目の被害者は美咲の友人の麻衣だった。去年の秋、殺される前までこの部屋に住んでいた女性だ。彼女を無残な姿に変えた犯人に憤りがあった。


 不動産屋は事故物件にあえて住もうとする美咲に奇異な目を向けた。しかし、証拠をつかむためには牧野に近づく必要がある。むしろ、麻衣が自分を守ってくれるはずだ。ためらいはなかった。


 牧野に近づくために、今泉に悪徳セールスマンの演技を頼んだ。それぐらいなら、と引き受けてくれた。麻衣は美咲と同郷のOLで、気の弱い性格だった。犯人の好みと思われる性格に合わせるのが良いだろうと考えた。


 昨晩の演技がきっかけで、男を部屋におびき寄せることができた。思ったよりあっさりと事が進んだ。美咲はこういう演技は得意なのだ。牧野はまんまと甘い罠にかかった。これも警察の仕事としては武器になる。麻衣の魂も導いてくれたのだろう。これから男の部屋に侵入して、証拠を見つけ出す。家宅捜索の許可が下りない以上、こうするしかないのだ。

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