85話 みんなで幸せに
「美味しい!!こんな美味しいものは初めてです!!!」
獣人さん達に手伝ってもらって、セズデルク王国の兵士たちにスープを配ればみなよほどお腹が空いていたのかすごく喜んでくれた。
元々セズデルク王国の人とセルヴァさんが仲がよかったおかげかセズデルク王国側の兵士達からの反感はまったくなくみなあっさり降伏に応じてくれた。
皆やせ細っていることから、もう戦う気力すらなかったのかもしれない。
「よかったですね、セルヴァさん」
食事を配ってくれている獣人さん達と喜んで食べている兵士さん達を見て言えば
「はい、クミ様のおかげですね」
と、セルヴァさんもお鍋からスープを器に移しながら微笑んだ。
あの後――。
すぐに獣人さん達を集めて、教団と戦う事、この町の平和が続かないかもしれないと説明した所、誰一人それに異を唱える人はいなかった。
皆、我々が救われた立場なのだから、もちろんセルヴァ様とクミ様の意思に従うし、全力で手伝うと笑いながらいってくれた。
これでやっと恩返しできるって。
セルヴァさんがちょっと涙ぐんでいたけれど、私は笑って「セルヴァさんの今までの行動の結果ですよ」と、教えてあげたら、セルヴァさんが私の手をとって「クミ様のおかげでもあります」と言ってくれて私も赤くなってしまった。
これからきっと大変だろうけれど――でも多分大丈夫。
犠牲者をださないで世界を変える力が私にはある。
作ったクリームシチューを見ながら私は思う。
日本の料理は剣より強し!
美味しいごはんでセルヴァさんを虐めたダルデム教団の連中をぎゃふんって言わせて見せる!!
前を向こう、諦めない。
この歪んだ世界に正常な日常を――。
セルヴァさんの望む平和な世界に。
みんなが笑顔になれる世界を。
この時、私はすっかり忘れていた。
キリカとカズヤの存在を。
■□■
「こんな美味しいものを本当にいただいてよろしいのでしょうか?」
瞳を潤ませて言う兵士に獣人のファーファは、「おかわりもいっぱいあるから食べてくださいね」と微笑んだ。
よほどお腹が空いていたのか、それとも初めてのクリームシチューの味に感動してか、皆瞳を潤ませながら「美味しい。ありがたい」とむさぼるように食べている姿を見てファーファは昔の自分達を見ているようで、セズデルク王国の兵士たちに同情してしまう。
身体は本当にやせ細っていて、もし獣人の自分達と戦争になったとしても彼らに戦う力なんてなかっただろう。
まるで昔の自分達を見ているようだ――。
自分達もクミやセルヴァがこの街に招待してくれるまではとても貧しい生活をしていた。
干した硬い肉を食べ、草と少量の塩を入れただけのスープ。
それでも食べられるだけ幸福だったと諦め、みなダルデム教の重税に耐えながら必死に生き抜いてきたのだ。
この街に来てから、クミはたくさんの幸せを自分達にくれた。
綺麗な飲み水。
美味しいごはん。
綺麗な家に、娯楽や、遊具。
生きていることを楽しむ余裕。
そして――ただ生き残るためだけの生活で何の希望もなかった自分達にやりがいと、生きる事をの喜びをこの1年とちょっとで与えてくれたのは、全部クミやセルヴァ達のおかげだった。
だから恩返ししないと。
クミやセルヴァ達がダルデム教と戦うと決めたのなら、自分達はそれに従うまでだ。
それにどうしても夢見てしまう。
もしかしたら――この人達なら、本当に幸せな世界を創ってくれるのじゃないかと。
自分達に幸せをくれたように。
「ファーファ、こちらも手伝ってくれ!」
ファーファはデュランに呼ばれて、「はーい」と微笑んでシチューを取りに行く。
どうか、みんなに美味しいと言ってもらえますようにと。
彼らも自分達と同じように幸せになれますように。








