65話 イルミネーション
「やっと準備ができましたね」
「はい。綺麗に飾り付けられました」
お祭りの前日。私とセルヴァさんはお祭り用に飾り付けられた公園を見ながら二人で歩いていた。
クリスマスのイルミネーションをイメージした飾り付けで、ダンジョン産の不思議な宝石で飾り付けている。
夜になると不思議な光を放ってとても綺麗だった。
すでに簡易でつくった出店も用意できていて、後は明日の昼間に子供たちに配るお菓子を用意すればいいだけだったりする。
「楽しみですね。みんな喜んでくれるかな?」
「喜ぶと思いますよ、獣人の皆さんは明日に備えるともう寝てしまいましたから。気合の入れ方が違います」
と、夜の公園を歩きながらセルヴァさんも目を細める。
「シャルティ達も同じ事を言って寝ちゃいましたしね」
「そうですね」
と、ふふっと笑いながら二人で夜の公園を歩いてみる。
なんだかこうやって二人で歩いてるとちょっとクリスマスのデートみたい?なんて思いながら勝手に一人盛り上がるけれど、セルヴァさんは誰にでも優しいから私に付き合ってくれるんだろうなぁと思う。
きっと付き合ってくださいと言えばセルヴァさんは付き合ってくれると思う。
私が好きとかじゃなくて、理由は優しいから。
セルヴァさんが直接的な原因じゃないのに、いまだに間違って召喚された責任を感じてくれているみたいだし、私が快適に過ごせるようにいつも気をつかってくれている。
きっと付き合ってとお願いすれば、罪悪感から付き合ってくれるだろう。でもそこにあるのは愛情じゃない。
私の我がままで、セルヴァさんの心まで欲してしまうのは違う気はする。
……でも、妄想で夫婦になるくらいいいよね。うん。誰にも迷惑かけてない!
結局婚約者とはあんな事になちゃって、こんな世界に来ちゃった今、夢に見た幸せな家庭は無理だったけれど。
今のセルヴァさんやシャルティにワンちゃん達との家族みたいな関係はとても楽しい。
「クミ様の世界ではこういった祭りを家族で楽しむ風習があったのでしょうか?」
「はい。両親はいなかったから施設でやるくらいだったんですけどね。
それでもこういうお祭りは楽しかったですよ」
「ああ、すみません、気が利かない質問をしてしまいました」
「かまいませんよ。両親がいないことを寂しいとは思いましたけど、悲観はしてませんから。
あ、そうだ」
「はい?」
「だったら、お詫びをしてもらってもいいですか?」
「お詫び?ですか? 私が出来る事なら、もちろんさせていただきます」
セルヴァさんが真剣に言うので私はおかしくなって、手を差し出した。
「……え?」
「憧れてたんです。父親と手をつないでイルミネーションされた公園を歩くの。
だからセルヴァさんが父親役になってください」
「わ、私がですか?」
「嫌ですか?」
私がにっこり微笑めば、セルヴァさんは真っ赤になって
「い、いえ、光栄です」
と、手をつないでくれた。
こういう女性免疫のないところも可愛いと思ってしまうのは失礼かのかも?
セルヴァさんには申し訳ないけれど、ちょっとくらい恋人気分を味わうくらいは許されるはずだよね?
「じゃあ、行きましょうか?」
私が手をつないだままいえば、セルヴァさんが顔を真っ赤にしながら「はい」と歩き出した。耳まで真っ赤でちょっと、申し訳ないような気もしてきた。
ちょっとふざけすぎたかな?そろそろやめた方がいいのかも。
「……え、えっと。体質の事もありますし無理そうならやめましょうか?」
「い、いえ!?違います!!
そ、その……私も……幼い時ずっと母と手をつないで歩いていく他の子が羨まして……その、言葉でうまく言えないのですが……で、出来れば私もお願いしますっ!!」
と、私の手をぎゅっと握ってくれる。
手袋ごしでもかんじる体温は温かくて、ちょっとドキリとしてしまう。
それにちょっと情けない表情も母性本能をくすぐるというか、きっと神殿にいた時は女性にもてたんだろうなぁ。
「じゃあ、セルヴァさんがお父さんで、私がお母さんですね」
と、笑えば、セルヴァさんも「そうですね」と笑ってくれた。
二人で手をつないでたわいもない話をして歩くのがとても楽しくてーー。
きっと今の関係は、お互いがお互いのもらえなかった親の愛情を補っているだけなのかもしれないけれど――それでも、それで幸せだから。
願わくは――私のせいでこんな環境になってしまった――セルヴァさんにとっても今の環境が幸せなものでありますように。








